(※この記事は、筆者のベテラン君が実際に不動産会社から依頼を受けた「物件調査・重説作成」案件をもとに、調査や重説作成のポイントをわかりやすく説明するものです。)
こちらの記事では、連棟住宅(テラスハウス)を切り離して、解体更地渡しをする取引の確認事項について、物件調査のポイントをわかりやすく説明しています。
・テラスハウスとは?連棟住宅が一戸建てよりも安い理由についてまとめた
売主が、連棟を切り離して解体し、更地にして買主に引き渡す契約ですね。
【これからのスケジュール】 |
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6月 | 売買契約…手付金授受 |
7月 | 境界標の設置 |
8月 | 「連棟切り離し同意書」の取得 |
「私道掘削承諾書」の取得(〜9月末まで…解除条件) | |
10月 | 解体工事〜約2週間 |
建物滅失登記申請 | |
更地で引き渡し・残代金決済(〜10月末まで) |
【ワンポイント】連棟住宅(テラスハウス)とは
連棟住宅・テラスハウス(建築基準法上の「長屋」)とは、一棟の建物に独立した複数の住戸があり、住戸数によって、二戸一(にこいち)、三戸一(さんこいち)などと呼ばれます。
各住戸間で界壁(※)を共有している建築物です。土地(敷地)の権利については、戸建のように、各住戸が独立した権利を持ちます。
なお、同じく一棟の建物に独立した複数の住戸があるタウンハウス(共同住宅)は、マンションのように、敷地を各住戸で共有するものです。
連棟住宅(テラスハウス)もタウンハウスも、ともに建築基準法上は、一棟の共同住宅であるため、区分所有建物(マンション)と同じように、建て替え、大規模修繕を行う際には、他の住戸の同意が必要であり、連棟住宅の切り離しについても他の全住戸の「同意書」が必要となります。
(現地とビデオ通話がつながっています。)
先日、解体業者さんは「解体後に越境が生じないようにキレイに切り分けます」と言ってました。
道路側の基礎コンクリは境界ラインに沿って電動工具でハツって、屋根瓦と雨樋を撤去して板金を巻いて雨仕舞をするとのことです。家の裏側についても、瓦の一部を切断するので越境にはならないとのこと。解体後の補修は、大工さんが行うそうです。
解体業者さんと一緒に物件の敷地と建物のなかに入って、境界のチェックをしましたか?
いいですか、契約までに、絶対に確認してくださいよ。
建物外部の屋根とか雨樋が境界ラインからはみ出ることはあるかもしれないけど、建物内部で越境なんてことが起こるのかな?
界壁って平らな面のはずで、その壁の中心が境界ラインでしょ。
悪いけど、私も忙しいんだから。
まあ、時間があれば、ということにしましょう。)
〜営業日報〜
◾10月某日 解体工事着工
◾10月某日
解体業者より、通路側の屋根瓦と雨樋(あまどい)が解体後に越境する可能性がある、と連絡あり。
◾10月某日
隣家から『将来撤去の覚書』を取得。買主にも伝えて、了承を得る。
①互いに、現状の越境を認める(撤去しろと言わない)。
②ただし、再建築する際には越境しない。
③売却したときは、次の所有者に覚書の内容を引き継ぐ。
【ワンポイント】越境物がある場合の対処法
越境物への対応は、口頭の説明だけですと後日のトラブルの種になります。どのように対処するかについて、必ず重説、契約書、覚書などの書面に記載し、買主に説明をしなければなりません。
越境物がある場合の対処方法は、売主が自己の責任と負担において引渡しまでに除去するのが原則です。例外的に、越境物の除去が困難な場合には、「現状の容認と将来的な除去」を内容とする覚書(将来撤去の覚書)を売主が隣地所有者との間で結び、買主に引き継いでもらう方法があります。
なお、この覚書による処理は、越境を解消せずに引渡しを受ける買主に不利・不公平が生じないように、「買主が認めた場合に限り、買主が事前に承諾する内容にて」行ってください。
越境物がある場合の調査では、越境によって隣地とトラブルが生じていないか、既に隣地との間で覚書などが取り交わされていないか、売主に確認をしてください。また、越境の度合いによっては、建築確認対象面積が減少したり、再建築が認められないこともあります。役所等で詳細調査が必要です。
◾10月 残金決済前
ブルーシートで覆われていた壁面について、トタンで施工された部分が境界線より最大約20cm本物件内に越境していることが発覚。
屋根瓦や雨樋だけの問題ではなく、建物本体が越境している。
本物件の間口および有効敷地面積が減ることとなり、買主の建築プランに影響がでる。買主が融資を受ける予定の銀行からも説明を求められる。
買主は納得せず。決済日を延期して現在交渉中。
仲介担当者のための物件調査の実践アドバイス
連棟住宅を切り離して、解体更地渡しをする取引の確認事項
古い木造の連棟住宅の切り離しを含む土地取引は、非常に難易度の高い案件のひとつです。
ゴールにたどり着くまでに、いくつものハードルをクリアしなければなりません。
最初に【やることリスト】を作って、ひとつひとつ着実にこなしましょう。
【やることリスト(解体・更地渡しの調査・確認事項)】
(参考例)
□建物外部から境界ラインと越境を確認
□敷地内および室内から境界ラインと越境を確認
□解体工事の内容の打ち合わせ→売主、隣家、解体業者
切り離し後の壁はどうするか(トタン、サイディング?)その他、補修が生じたときの措置
□越境物ある場合:撤去するか、将来撤去の覚書か
□切り離し後、残された建物の強度は大丈夫か(→建築士に確認)
□切り離し後、残された建物が違反建築とならないか(→役所に確認)
□解体工事の許可はおりるか(→役所に確認)
□前面道路が私道の場合、道路通行許可、掘削の同意が必要か
□ライフライン調査(水道・下水道・ガスの埋設状況を確認)
□隣家から連棟切り離し同意書を取得できるか(解体工事を説明して承諾を得る)
□切り離し工事ができなかった場合の措置(解除条件)→買主に説明
□費用見積り依頼
・建物解体工事(→解体業者に依頼)
・境界標設置(→土地家屋調査士に依頼)
・建物滅失登記(→司法書士に依頼)