(この項目では、FRK・宅建協会・全日・全住協の契約書を念頭に説明しており、書式や記載方法は微妙に異なっていますが、用語の意味や記入すべき内容は基本的に同じです。ここではFRKの記入方法を中心に解説しています。)
不動産(土地・建物・マンション)を売買する際、契約書に「手付解除」という項目があります。
(手付解除) 第15条 売主、買主は、本契約を表記手付解除期日までであれば、互いに書面により通知して、解除することができます。 |
「手付解除」の意味と内容
こちらは、不動産売買契約における手付が解約手付であること、手付解除期日までであれば、互いに書面により通知して契約の解除ができることを定めた条項になります。
売主、買主共に合意により定めた手付解除期日までであれば、理由を問わず手付放棄、手付倍返し(手付金を返した上で、手付金と同額の金員を支払うこと)をすることによって不動産売買契約を解除することができます。手付解除については、理由を問わずに契約解除することができることから、「無理由解除」といわれることもあります。
手付解除期日について
手付解除は理由を問わず契約解除ができる制度のため、いつ契約解除されるかわからないということになり、法律的に不安定な立場に立たされているということができます。したがって、いつの時点まで手付解除が可能なのか、明確になっていなければなりません。
民法は、手付解除期日について「履行に着手するまで」としています。
買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。
判例(最高裁昭和40年11月24日判決)では、「民法第557条第1項にいう履行の着手とは、債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指す」と説明されています。
しかし、これではわかりませんよね。「履行の着手」と言う概念は、手付解除期日を定める基準としては、不明確と言わざるを得ません。
そのため、こちらの条項では、民法の手付解除期限「履行に着手するまで」に対する特約として、「手付解除期日」を当事者の合意により明確に定めることとしています。つまり、こちらの条項は民法に対する特約となっているのです。
手付解除期日の定め方について
手付解除期日を設定するには、契約締結日から残代金決済日までの日程などを考慮した上で、売主買主双方の合意により決定しなければなりませんが、標準的な手付解除期日は次の表の通りとなっています。
契約から決済までの期間 | 標準とする手付解除の期日 |
1カ月以内 | 残代金支払日の1週間前から10日前 |
1カ月〜3カ月 | 契約日から1カ月前後の日 |
4カ月〜6カ月 | 契約日から2〜3カ月前後の日 |
売買契約締結後、決済までの間に内金を支払う場合は、手付解除期日を内金支払日以降に設定することは避けるべきです。こちらの条項が民法に対する特約であるとはいえ、買主の内金の支払いは「買主が履行に着手した」ことになり、内金支払後の手付解除に関してトラブルになる可能性があるからです。
とはいえ、売主と買主の意向により、内金支払日の後の期日を手付解除期日と定めるケースもあります。その場合には、次の特約例による特約を定めるのが一般的です。
内金授受の後といえども手付解除ができる特約 1 売主、買主は、第3条の内金支払い後といえども、第15条に定める手付解除条項が有効であることを、互いに合意します。 2 内金授受の後、第15条により手付解除となった場合、売主は受領済みの内金を無利息にて買主に返還しなければなりません。 |
この特約により売主が手付解除をする場合の覚書はこちら(記入する日付は本覚書締結日です。なお印紙は不要です。)
この特約により買主が手付解除をする場合の覚書はこちら(記入する日付は本覚書締結日です。なお印紙は不要です。)
また、売買契約締結後、売主、買主が協議した結果、不動産売買契約で手付解除期日より後の期日に支払い予定されている内金を、①手付解除期日前に授受すること、②この内金の授受をもって、売主、買主双方とも手付解除ができなくなることで合意した場合にも、覚書の締結が必要です。
この場合の覚書についてはこちら(貼付する印紙は200円です。)
手付解除の手続きについて
手付解除の条項の第1項では、書面による通知によって手付解除を行うことを定めています。通知をしたかどうかの確実性と後日のトラブル防止を考えれば、手付解除の通知は「配達証明付きの内容証明郵便」で行うべきです。
売主が手付解除するときは、手付金と手付以外買主から受け取ったお金及び手付金と同額のお金の合計金額を買主に支払わなければなりません(手付倍返し)。売主は、手付解除の通知をするとともに、この合計金額を買主が受け取ることができるようにしなければなりません。手付解除の通知のひな形は次のとおりです。
【売主の手付解除通知①「倍返しの典型パターン(振込口座を教えてもらえている場合)】 前略 平成◯年◯月◯日付の貴殿との◯◯◯◯の売買契約(以下「本契約」という。)について、通知いたします。 売主 ◯◯◯◯ 印 |
【売主の手付解除通知②「倍返しのパターンで郵便為替を送る場合」】 前略 平成◯年◯月◯日付の貴殿との◯◯◯◯の売買契約(以下「本契約」という。)について、通知いたします。 売主 ◯◯◯◯ 印 |
【売主の手付解除通知③「倍返しのパターンで銀行口座を教えてもらっていない場合」】 前略 平成◯年◯月◯日付の貴殿との◯◯◯◯の売買契約(以下「本契約」という。)について、通知いたします。 売主 ◯◯◯◯ 印 記 |
この場合、通知の後に銀行口座を教えてもらい、実際に振込手続きを行って、金銭を現実的に提供するまでは、手付倍返しによる契約解除の効果が発生しないことに注意が必要です。
【買主の手付解除通知】 前略 平成◯年◯月◯日付の貴殿との◯◯◯◯の売買契約(以下「本契約」という。)について、通知いたします。 買主 ◯◯◯◯ 印 |
売主が手付倍返しにより契約を解除し、覚書を作成する場合の覚書はこちら(記入する日付は本覚書締結日です。なお印紙は不要です。)
買主が手付放棄により契約を解除し、覚書を作成する場合の覚書はこちら(記入する日付は本覚書締結日です。なお印紙は不要です。)
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