専業主婦の奥様は、ご主人からの給料をなんとかやりくりしながら、コツコツと貯金していることだと思います。
しかし、そのコツコツと貯金したお金を奥様名義の銀行に預けていても、税法上、夫の預金として扱われることをご存知でしょうか?
「は???なぜ???」と思われたことでしょう。
ここではその理由と、コツコツ頑張った奥様への「おしどり贈与」についてわかりやすく説明します。
専業主婦の貯めたお金がご主人のお金である理由
残念ですが、奥様名義の預金でもその資金の源泉はご主人ですので、税法上では、実質的所有者としてご主人の預金と扱われます。
専業主婦である「奥様の預金」と明確に言えるのは次のようなものに限られます。
- 相続によって親の遺産分けでもらった財産
- 結婚前に仕事していた時の預金
- 結婚式でもらったご祝儀
いくら専業主婦の奥様が、ご主人からの給料をやりくりして、奥様名義の口座にコツコツ貯めていたとしてもそれは税法上、奥様の預金としては認められません。そのため、専業主婦の奥様が貯めた預金をマイホームの購入資金に出しても、奥様はその不動産の持分を持てず、夫婦共有名義の不動産にはなりません。
「コツコツ頑張っても自分の財産ではない」ことを初めて知った奥様は、急にテンションが下がっていることでしょう。
離婚時における財産分与は家の名義人とは関係ない
名義が夫であっても、離婚時の財産分与においては不動産も対象になります。財産分与とは、夫婦が離婚するときに、婚姻時(結婚していた期間)に形成した資産を分け合うことです。預貯金や株部式、生命保険や不動産などの財産が対象になるので、家も財産分与対象に含まれます。
しかし、コツコツ頑張っている奥様にメリットがあります。
それが「おしどり贈与」です。
おしどり贈与とは
個人からお金や不動産などの財産を受け取った場合は、それが夫婦や親子であっても贈与税(ぞうよぜい)という税金がかかります。
おしどり贈与(贈与税の配偶者控除の特例)とは、長年連れ添った妻の内助の功(ないじょのこう:家庭において、夫の外部での働きを支える妻の功績)を評価して設けられた税法上の特例です。具体的には、マイホーム(居住用不動産)、またはマイホームの購入資金のうち2,000万円(基礎控除と合わせれば2,110万円)までは贈与税がかからないというものです。
・不動産の贈与税とはなにか計算方法についてわかりやすくまとめた
おしどり贈与の計算方法
(贈与財産価額 − 2,000万円 − 110万円)× 税率 − 控除額
税率と控除額については次の通りです。なお、税率に関しては「特例贈与財産」と「一般贈与財産」に区別され、特定贈与財産については特例贈与財産については税率が低く設定されています。
- 特例贈与財産(とくれいぞうよざいさん):直系尊属(ちょっけいそんぞく:自分の父母・祖父母・曾祖父母)からその年の1月1日時点で20歳以上である直系卑属(ちょっけいひぞく:子・孫など)への贈与。
- 一般贈与財産(いっぱんぞうよざいさん):特例贈与財産以外の場合
基礎控除後の課税価格 | 特例贈与財産 | 一般贈与財産 | ||
税率 | 控除額 | 税率 | 控除額 | |
200万円以下 | 10% | 0万円 | 10% | 0万円 |
300万円以下 | 15% | 10万円 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 | ||
600万円以下 | 20% | 30万円 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 | 50% | 250万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 | 55% | 400万円 |
4,500万円超 | 55 | 640万円 |
ただし「コツコツ頑張った」という条件があるため、おしどり贈与を利用するためには次の適用条件があります。
1. 婚姻期間20年以上
入籍してから20年以上経っていなければなりません。婚姻期間は、婚姻の届出があった日から贈与までの期間です。内縁の妻には適用がありません。
2. 居住用不動産かその取得のための金銭
マイホームか、あるいはマイホームの購入資金のどちらかです。
マイホームの場合、贈与税の計算方法と同じく、基本的に相続税評価額で計算します。
3. 翌年3月15日までに住み、その後も住み続けること
贈与を受けた翌年の3月15日までに居住用不動産に住み、その後も住み続けなければなりません。
4. 一生に一度の適用
おしどり贈与は同じ配偶者との間において、一生に一度しか利用できません。再婚して別の配偶者との間であれば適用を受けることができます。
5. 税務署への申告が必要
おしどり贈与の適用を受けるには、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、住んでいる地域を管轄する税務署に贈与税の申告書を提出する必要があります。
次の書類を添付して申告します。
- 贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍謄本または抄本
- 贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍の附票の写し
- 居住用不動産を取得したことを証する書類
- その居住用不動産に住んだ日以後に作成された住民票の写し(戸籍の附票の写しに記載されている住所が居住用不動産の所在場所である場合には、必要ありません)
・贈与税の申告に間に合わなかったとき、特例制度の適用は可能なのか
詳しくは国税庁HP「夫婦間の居住用不動産の贈与」をご参照ください。
おしどり贈与の計算方法
では、実際に計算してみましょう。
例題
結婚して20年以上である夫から現在住んでいるマンション(相続税評価額2,000万円)について妻が贈与を受けました。おしどり贈与を利用した場合、贈与税がいくらになるでしょうか。
計算すると、2,000万円 − 2,000万円 − 110万円 × 10% = マイナスになるので、贈与税はかからないということになります。
コツコツ頑張った奥様にのみ一生に一回の特例があるのです。
おしどり贈与を利用するメリット
おしどり贈与にはもう一つ利点があります。通常「相続開始前で3年以内の贈与は相続税に加算される」というルールがあるのですが、相続税開始前3年以内におしどり贈与があっても、相続税に加算されません。
マイホームを夫婦で分割して所有できるので、相続財産を減らすことができるということになり、相続税の節税につながります。もちろん、おしどり贈与の控除額を超えた贈与については相続税の対象となるので注意が必要です。
「特別受益」と「持ち戻し」
おしどり贈与は、妻への内助の功に対しての特例だけでなく、妻の老後の生活保障という意味合いがあります。日本人の平均寿命は男性が81歳、女性が87歳のため、同い年の夫婦であっても、妻には約6年間の余生がありますし、夫が年上なら妻の余生はさらに長くなります。
しかし、現在の民法では相続人の間の公平のため、こうした生前贈与を「特別受益(とくべつじゅえき)」として扱い、その分だけ法定相続分を減らすという規定があります。この計算を「持ち戻し」といい、おしどり贈与の分が持ち戻しされると、妻の老後の生活保障という意味合いが薄れてしまいます。
例えば、2,000万円をおしどり贈与した夫が、妻と子ども1人に4,000万円の預金を残して亡くなったとします。法定相続割合は妻と子どもで2分の1ずつのため、持ち戻し計算をすると取り分はそれぞれ3000万円です。すでに2,000万円を受け取っている妻は、預金のうち1,000万円しか相続できなくなります。
ただ、民法改正(2019年7月12日までに施行)により、相続時において、婚姻20年以上の夫婦間で贈与した居住用不動産は「特別受益」にあたらない(推定)とし、金額に関わらず自宅を生前贈与を受けても原則として相続分から差し引かれないことになりました。ただし、マイホーム取得資金については、この規定の対象外です。
ちなみに、夫が遺言や生前の言動などで「持ち戻し免除」の意思表示をしていれば特別受益に含まれず、妻の相続分は減りません。
配偶者におしどり贈与をしておけば所有権が移るため、もし、どちらか亡くなっても、家を処分したいときに売却して現金化することができますが、おしどり贈与をせずに相続が発生した場合で、配偶者が住み続ける居住権(配偶者居住権)を選択すると勝手に自分で売却することができなくなります。
また、おしどり贈与により、マイホームを夫婦の共有財産にしておくと、売却する際に「3,000万円特別控除」を夫婦2人とも適用できるため、2人あわせて最高で譲渡益6,000万円までまで譲渡所得税がかかりません。
ただし、「3,000万円特別控除」を利用するには、家屋とともに土地を売却する必要があるため、土地と家屋部分ともに贈与しておく必要があります。