(この項目では、FRK・宅建協会・全日・全住協の契約書を念頭に説明しており、書式や記載方法は微妙に異なっていますが、用語の意味や記入すべき内容は基本的に同じです。ここではFRKの記入方法を中心に解説しています。)
不動産(土地・建物・マンション)を売買する際、契約書に「融資利用の特約」という項目があります。
(融資利用の特約) 第17条 買主は、売買代金に関して、表記融資金を利用するとき、本契約締結後すみやかにその融資の申込みて続きをします。 |
「融資利用の特約」の意味と内容
こちらは、融資(ローン)の承認が期日までに得られない、または否認されたときに、買主に解除権を定めた条項になります。こちらの条項(ローン条項)による解除は、いわゆる白紙解除で、原状回復のみです。違約金の問題は生じません。
「ローン」というのがどのローンを指すのかについて法律的な定義はありません。取引慣習として公的融資、提携ローン、プロパーローン、社内融資等がありますが、こちらの条項の適用を受ける融資もこれら全部が含まれます。
こちらの条項においてローンの選別はしておらず、表記融資金の欄に記入されたローンについてはローン条項の適用があり、記入されないローンについてはローン条項の適用がない(現金扱いになる)という形式になっています。
融資承認取得期日と契約解除期日の設定について
融資承認取得期日の設定にあたっては、買主が利用するローンについてスケジュールを十分把握し、さらに売主・買主と十分な協議をしながら、利用するローンごとに期日設定を行います。契約解除期日については、融資承認が得られない等の際の買主との協議、売主への通知にかかる日数等を十分考慮して、売主・買主双方の合意により決定しなければなりません。標準的な契約解除期日は「融資承認取得期日」の最終日より1週間から10日後です。
買主は、不動産売買契約締結後速やかに、融資の本申込みを融資先にする必要があります。これは、ローンの結果が判定するまでは、売主の立場が不安定なものであるためです。宅建業者は、不動産売買契約締結後に買主がローンの手続きをするよう指導すべきと同時に、その結果についても売主に連絡します。
融資承認が得られない、または否認されたときについて
こちらの条項は、融資承認取得期日までに融資承認が得られない、または否認された場合、不動産売買契約が当然にその効力を失うという形式にはなっていません。これは、予定通りの融資を受けられなくても、他から資金繰りがつけば、契約の効力を失くす必要性がないからです。そこで、買主は契約を続行するか解除するかの選択をすることになりますが、表記の契約解除期日までに売主に解除の通告をしない限り、契約を履行しなければなりません。
第2項の「融資の全部もしくは一部について承認が得られないとき」とは、融資機関等からの融資審査の結果が融資承認取得期日の時点で得られない場合や、申込金額全額についての承認が得られず、一部減額という条件で承認を得た場合を指しています。否認の場合における宅建業者の実務は次のとおりとなります。
①融資承認取得期日までに融資審査の結果が得られない場合
宅建業者は買主を通じて、融資先に審査の状況及び融資承認の見通しを確認します。
融資承認の得られる見通しであればその時期を確認のうえ、契約解除期日よりも遅くなるようであれば、売主と協議のうえ当初に定めた融資承認取得期日及び契約解除期日の延長の覚書を交わし、本契約を続行するよう努めます。
融資が申し込み金額通りに承認が得られないまたは否認される見通しの場合は、買主が他の手段で資金を調達できるか否かの協議を速やかに行います。
その結果、融資承認取得期日までに資金調達のめどが立たなかった場合は、買主に対して、売主へ解除の通告をするよう促し、契約解除期日までに到達するよう解除通知書を発するか、または契約解除期日までに、契約解除の覚書の締結を行います。
【融資の承認が得られないまたは否認されたときの契約解除の通知】 前略 平成◯年◯月◯日付の貴殿との◯◯◯◯の売買契約(以下「本契約」という。)について、通知いたします。 買主 ◯◯◯◯ 印 |
融資利用の特約に関する白紙解除における契約解除のときの覚書の例はこちら(記入する日付は本覚書締結日です。また、「本契約締結と同時に無利息にて返還します。」の「本契約締結」を「平成◯年◯月◯日までに」と読替えするのも可能です。なお印紙は不要です。)
②融資が否認もしくは、申込金額通りに承認が得られず一部を減額された場合
宅建業者は買主を通じて、融資先にローン否認または減額の事実の有無を確認し、その事実があった場合は、買主が他の手段で資金を調達できるか否かの協業を速やかに行います。
その結果、資金調達の目途がたたない場合は、買主に対して、売主へ解除の通告をするよう促し、契約解除期日までに、契約解除の覚書の締結を行います。なお、買主が他のローンに再度申込をする場合は、覚書を締結し、売主・買主間の合意事項を確認する必要があります。
③その他
複数の融資利用については、複数の内の一つの融資が、融資承認取得期日までに融資審査の結果が得られない場合、融資承認が得られる見通しであれば、融資承認取得期日の延長の覚書を交わし、本契約を続行するよう努めます。否認される見通しで、かつ他の手段でも資金調達の目途が立たない場合は、他の融資承認取得期日の到来前であっても速やかに契約解除の手続きを行います。
複数の内の一つの融資が、否認もしくは申込金額の一部を減額された場合、買主が他の手段でも資金調達をする目途がたたない場合は、他の融資承認取得期日の到来前であっても速やかに契約解除の手続きを行います。
契約解除期日までに契約解除の覚書の締結ができない場合にも、買主は少なくとも、売主へ契約を解除する旨の通知をする必要があります。この通知については書面化を義務づけていませんが、後々の紛争防止の為、書面にて行うべきでしょう。なお、民法では意思表示の効力は、その意思表示が相手側に到達したときから効力が生じる(到達主義)とされています。
隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
したがって、書面により契約解除の通知を行う場合は、契約解除期日内に買主からの書面が売主に到達することが必要です。
売買代金を上回る融資利用(オーバーローン)について
契約書では「買主は、売買代金に関して、表記融資金を利用するとき、」としているため、原則、物件の売買代金の範囲内で融資を受けることとしています。
しかし、自宅の買換えの際、自宅の売却代金だけでは既存の借入金の残債を返済できない場合には、「抵当権抹消ローン」や「返済ローン」を組まざるをえないことがあります。また、事情によっては諸経費を含めたローンを組むこともあります。買主が買主の都合で売買代金を上回る融資金額を利用する場合(オーバーローン)は、融資の全部または一部について承認が得られないとき、または否認されたときには、買主は第2項により、契約解除期日までであれば、契約解除できるようにしてあげるべきです。したがって、オーバーローンは、なるべく避けるべきですが、やむをえない事情により、買主がこれを利用する場合には、特約により、売主・買主間で確認する必要があります。
諸経費ローン特約 売主、買主は、買主が本物件を買受けるにあたり、売買代金の一部に併せて、本物件購入にかかる諸費用についても融資利用するため、第◯条(融資利用の特約)の規定を当該融資に準用すること、および融資金額の合計が売買代金の額を超えて金◯◯,◯◯◯,◯◯◯円となることを確認しました。 |
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