不動産を売却するときは、譲渡所得の税金の計算をしなければなりません。譲渡所得とは、売却価格から購入価格を差し引いたもので、利益が出ているなら税金を払わなければなりません。
しかし、契約書や領収書が残っておらず、購入価格がわからない場合ばどうすればよいのでしょうか。
実額取得費と概算取得費の違い
購入費用(=取得費)には、購入価格の他に仲介手数料などの費用も含まれます。これらのものを漏れなく計上することが、節税に重要なポイントになります。そして、実際に取得費の金額を計算するためには、その金額を証明する領収証などが必要になります。この実際の取得費を計算することを実額法(実額取得費)といいます。
一方、これらの購入費用(=取得費)が不明なとき、または実額取得費が少額となるときは、売却代金(=譲渡収入金額)の5%相当額を取得費として計算します。これを概算法(概算取得費)といいます。相続で取得した場合やかなり昔に購入したものでない限り、実額取得費の方が有利です。有利というより、概算取得費で計算すると納税額がかなり大きくなることが多いためです。
契約書や領収書の紛失に伴い、概算取得費5%で計算するのは仕方がないとはいえ、なんとか実額で計算する方法はないのでしょうか。その前に取得費を実額で計算するのか概算で計算するのかでどれぐらい違いが出るのか計算してみましょう。
譲渡所得や譲渡所得の計算方法についてよくわからない方は以下を参照してください。
実額法と概算法でどれぐらい違いが出るのか計算してみましょう。
例題
平成21年4月にマンション(3,000万円・居住用・鉄筋コンクリート造)を購入した。それを平成28年1月に3,200万円売却した場合、譲渡所得にかかる確定申告の税額はいくらか。譲渡費用は200万円とし、特例等は対象外とする。またマンション購入時の3,000万円のうち、土地が1,000万円、建物が2,000万円とする。
・実額法(実額取得費)による計算方法
「譲渡所得=譲渡(売却)収入金額−{(取得費−減価償却費)+譲渡費用}」ですので、まずは減価償却を計算します。期間は、平成21年4月〜平成28年1月なので6年8ヶ月です。5捨6入なので7年ということになります。 減価償却費=2,000万円×0.9×0.015×7年=189万円 所有期間は平成28年1月1日で7年なので、長期譲渡所得の所得税・住民税の税率20.315%を適用できます。 譲渡所得189万円×20.315%=383,953円(所得税・住民税) 減価償却費の計算について詳しく知りたい方は以下を参照してください。 |
・概算法(概算取得費)による計算方法
「取得費=譲渡(売却)収入金額×5%」ですので、3,200万円×5%で160万円 概算取得費の場合は減価償却費を差し引きません。 所有期間は平成28年1月1日で7年なので、長期譲渡所得の所得税・住民税の税率20.315%を適用できます。 譲渡所得2,840万円×20.315%=5,769,460円(所得税・住民税) |
上記の数字を見て驚きませんか。実額法での税金が383,953円に対して、概算法は5,769,460円です。
このような結果を見ると、何としても昔の購入時の契約書を探して探して探しまくるでしょう。それでも見つからない場合、もうあきらめるしかないのでしょうか。
実額で取得費を計算するために他の手立ては本当にないのでしょうか。
購入時の契約書や領収書がなくても実額で取得費を計算する方法
繰り返しになりますが、購入時の契約書等を紛失してしまい、購入価額が不明な場合は、原則として概算取得費(「譲渡収入金額×5%)」)で計算します。ただし、契約書・領収書等以外で実際の購入価額を証明できるものがある場合は、実額によって計算することができます。
次のような証明書類をできるだけ用意して、購入時の状況説明と契約書類等の紛失理由を書いた「申述書」を確定申告書に添付します。税務署にその内容に信ぴょう性があると認められるとその申告(実額法での計算)は認められます。
- 通帳の出金により購入価額として支払った金額が明らかに証明できる
- 通帳等で住宅ローンの支払い状況がある
- 住宅ローンを借りた金銭消費貸借契約書のコピー、ローンの償還表等がある
- 全部事項証明書の乙欄で抵当権の設定金額の状況がわかる
- 購入当時の不動産業者の、不動産価格が記載されているパンフレット等がある
このような証明書類に加えて、以下のように当時の購入価額を推定する方法もあります。上記の書類の補完資料として「申述書」に以下の推定価格を記載すればさらに信ぴょう性が増します。
・土地の場合
(一財)日本不動産研究所が公表している「市街地価格指数」を使って、売却価額に指数の割合を乗ずることにより購入当時の推定価額を記載します。
・建物の場合
「建物の標準的な建築価額表」を基にして、購入当時の推定価額を記載します。
上記で計算した金額は、実際の購入価額を証明するものではなく、確実に証明できるものということができません。判断するのは税務署です。そのため、購入時の契約書類は紛失することがないよう、くれぐれも大切に保管してくださいね。