譲渡所得税を簡単にいうと次のような税金です。
- 不動産を売却した利益を譲渡所得といいます。
- 利益が出ている場合には譲渡所得税・住民税を納めなければなりませんが、損失の場合は必要ありません。
- 不動産の譲渡所得は、他の所得税と一緒に計算して相殺することは不可能です。
- 課税方法は所有期間によって異なり、譲渡した年の1月1日現在において、所有期間が5年以下か5年を超えるかにより大きく2つに分けて判断します。
- 使用の用途を居住用、事業用(非居住用)に分けて、条件が該当する場合には特例や特別控除、繰越控除を受けることができます。
あなたが不動産(マンション・戸建て・土地)を売却するときに、利益が出ると譲渡所得税を納めなければなりません。
あらかじめこの計算方法を知って売却するのと、知らずに売却するのでは税金が大きく異なってきます。当然、売却のタイミングも見計らう事になります。また、譲渡所得の税金がかからない人もメリットを受けれる場合があります。
この譲渡所得税とはどのような税金でしょうか。また譲渡所得税がいくらなのかあらかじめ計算できるのでしょうか。
こちらでは譲渡所得とはなにか、その計算方法についてわかりやすく説明します。
譲渡所得税とは
給料や個人が商売して儲けた利益、不動産を売って得た利益など、個人がなにかしらの収入を得た場合は、所得税・住民税がかかります。
所得は、収入からその収入を得るためにかかった費用を差し引いて計算します。所得は、1年間の間にどのようにして得たのかによって10種類に分けられます。
種類 | 内容 | 計算方法 | 課税方法 |
事業所得 | 事業 | 売上−経費 | 総合課税 |
不動産所得 | 不動産の賃貸 | 家賃収入−経費 | 総合課税 |
給与所得 | 給与やボーナス | 給与−給与所得控除額 | 総合課税 |
一時所得 | 保険の満期返戻金や懸賞金など | 収入−収入を得るための費用−特別控除額 | 総合課税 |
雑所得 | 年金やその他の所得に当てはまらないもの | 年金−公的年金等控除額、その他の場合は収入−経費 | 総合課税 |
配当所得 | 株式の配当など | 配当収入−株式を取得するための借入利子 | 総合課税・源泉分離課税 |
退職所得 | 退職金 | (退職金−退職金控除額)×1/2 | 申告分離課税 |
山林所得 | 山林の伐採や譲渡 | 収入−経費−特別控除額 | 申告分離課税 |
譲渡所得 | 不動産、ゴルフ会員権、株式などの譲渡 | 収入−取得費−譲渡費用(−特別控除額) | 総合課税・申告分離課税・源泉分離課税 |
利子所得 | 預貯金などの利息 | 利息収入 | 源泉分離課税 |
このうち、不動産売却で得た利益は譲渡所得(じょうとしょとく)に分類されます。譲渡(じょうと)とは、「財産や権利を譲り渡すこと」という意味です。
詳しく言うと不動産を売却したとき、売却代金から不動産の購入したときの代金(取得費)と売却するときにかかった費用(譲渡費用)を差し引いた利益(売却益)を譲渡所得といい、その利益に対して所得税と住民税がかかります。
利益に対してかかる税金のため、売却して損失が出るなら課税されません。しかし、損失の場合にもメリットとなる特例があります。
不動産の譲渡所得税の計算方法
まず、売却益(譲渡所得)が出ていないと譲渡所得税がかからないので、譲渡所得を計算します。
譲渡所得の計算方法
譲渡所得 = 譲渡収入金額[売却価格] −(取得費 + 譲渡費用)
譲渡収入金額とは、土地・建物の譲渡代金(売却代金)に加えて、不動産契約決済のときに受け取る固定資産税・都市計画税の精算金を併せた金額です。納税義務者は売却した人なので、名目は固定資産税ですが、買った人は固定資産税を納めたわけではないため、売買代金の一部として扱われるからです。
・固都税(固定資産税・都市計画税)の清算(精算)方法についてまとめた
取得費に関しては次の①②の金額の内、大きい方の金額を使います。取得費用がわからない場合は②の概算法(概算取得費)を使います。
- 実額法(じつがくほう):土地・建物の購入代金と取得に要した費用を合計した金額から、建物の減価償却費を差し引いた金額
- 概算法(がいさんほう):譲渡収入金額(売却金額)×5%
譲渡費用とは、仲介手数料など売却するときにかかった諸費用を指します。取得費と譲渡費用について詳しくはこちらをご覧ください。
・譲渡所得の取得費と譲渡費用の計算方法ついてわかりやすく説明する
以上で、譲渡所得の計算ができます。
実際に、譲渡所得税がかかる金額(課税譲渡所得)の計算方法は次の通りです。
課税譲渡所得の計算方法
課税譲渡所得 = 譲渡所得 − 特別控除
特別控除とは、「居住用の3,000万円特別控除の特例」など次のような所得税や住民税を少なくする制度を指します。
①公共事業等のために土地・建物を売却した場合 | 5,000万円 |
②自己居住用の土地・建物を売却した場合 | 3,000万円 |
③特定土地区画整理事業等のために土地を売却した場合 | 2,000万円 |
④特定住宅造成事業等のために土地を売却した場合 | 1,000万円 |
⑤農地保有の合理化などのために土地を売却した場合 | 800万円 |
それぞれの特別控除額は、上記に示した額にかかわらず、特例の対象となる譲渡益の額が上限となります。例えば、自己居住用の不動産を売却して譲渡所得が2,000万円の場合、2,000万円が控除されることになります。ここでの3,000万円というのは、あくまでも最大3,000万円まで控除できるという意味です。
また、特別控除額の合計は年間5,000万円が限度となり、5,000万円に達するまでの特別控除の順番は、上記の①から⑤までの番号順で進めます。
売却のときに、譲渡所得税として払わなければいけない税金の計算方法は次の通りです。
譲渡所得税の計算方法
譲渡所得税額 = 課税譲渡所得 × 税率(所得税・住民税)
譲渡所得に対する税率は、対象となる不動産の用途や所有期間により税率が異なります。譲渡所得の税率は次の通りです。
所有期間 | |||
長短区分 | 短期譲渡所得 | 長期譲渡所得 | |
期間 | 5年以下 | 5年超 | 10年超所有軽減税率の特例 |
居住用 | 39.63% (所得税30.63%・住民税9%) |
20.315% (所得税15.315%・住民税5%) |
課税譲渡所得6,000万円以下の部分14.21% (所得税10.21%・住民税4%) 課税譲渡所得6,000万円超の部分20.315% (所得税15.315%・住民税5%) |
非居住用 | 39.63% (所得税30.63%・住民税9%) |
20.315% (所得税15.315%・住民税5%) |
※上記税率には、復興特別所得税(2013〜2037年)として所得税の2.1%相当が上乗せされています。
税率は所有期間によって異なる
土地・建物を譲渡した場合、長期譲渡所得と短期譲渡所得の区分に分けられて、譲渡した年の1月1日現在において、購入してから売却するまでの所有期間が5年以下か5年を超えるかにより判断します。
所有期間 | 判定 |
5年を超える土地・建物等 | 長期譲渡所得 |
5年以下の土地・建物等 | 短期譲渡所得 |
つまり、2011年4月1日に不動産(土地・建物)を取得した場合、2017年1月1日以降なら5年超として長期譲渡所得、2016年12月31日までであれば5年以下として短期譲渡所得になります。計算上は2016年4月2日に満5年を超えますが、基準は譲渡した年の1月1日現在です。
所有期間が短いものについては、投機的取引を抑えて地価を安定させるために税率を高くし、長いものについては、住宅地の供給を促進するために税率を低くしています。
・不動産の譲渡所得の計算における居住期間・所有期間・建築年数とはなにか
特例と特別控除・繰越控除
使用の用途(居住用・事業用・その他)により特例が異なります。
譲渡益が出た場合、一定の条件を満たせば次の①・②・③を受けることができます。
① 3,000万円特別控除の特例 ② 10年超所有軽減税率の特例 ③ 特定居住用財産の買換え特例 |
譲渡損が出た場合、一定の条件を満たせば次の④・⑤を受けることができます。
④ 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除 ⑤ 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除 |
④または⑤の適用がある場合、その譲渡損は他の所得と損益通算及び翌年以降の繰越ができます。
一定の条件とは次を指します。
所有期間 | ||||
長期区分 | 短期譲渡所得 | 長期譲渡所得 | ||
期間 | 5年以下 | 5年超 | 10年超 | |
居住の有無 | 居住用 | ①3,000万円特別控除 | ①3,000万円特別控除 ④居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除 ⑤特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除 |
|
②10年超所有軽減税率の特例 ③特定居住用財産の買換え特例 |
||||
非居住用 |
つまり、非居住用の不動産については、特例や控除は一切適用されません。
譲渡所得税の計算方法(例題)
では、実際に計算してみましょう。
例題
2009(平成21)年4月にマンション(3,000万円・居住用・鉄筋コンクリート造)を購入しました。それを2016(平成28)年1月に3,200万円で売却した場合、譲渡所得にかかる確定申告の税額(譲渡所得税)はいくらになりますか。
ただし、譲渡費用は200万円とし、特例等は対象外とします。また、マンション購入時の3,000万円のうち、土地が1,000万円、建物が2,000万円とします。
「譲渡所得 = 譲渡収入金額 −{(取得費−減価償却費)+ 譲渡費用}」ですので、まずは減価償却費を求めます。2009年4月〜2016年1月で6年8ヶ月となります。5捨6入なので7年ということになります。
減価償却費:2,000万円 × 0.9 × 0.015 × 7年 = 189万円 譲渡所得:3,200万円 −{(3,000万円 − 189万円)+ 200万円}= 189万円 ※所有期間は2016年1月1日で7年なので、長期譲渡所得の所得税・住民税の税率20.315%が適用。 譲渡所得税・住民税:譲渡所得189万円 × 20.315% = 383,953円 |
減価償却費の計算について詳しく知りたい方はこちらを参照してください。
・譲渡所得の取得費と譲渡費用の計算方法についてわかりやすく説明する
不動産の譲渡所得の課税方法について
所得税は、給与所得や不動産所得など各種所得金額を合計して総所得金額を求め、この総所得金額に税額を計算する総合課税(そうごうかぜい)が原則です。総合課税である所得は、利益が出た所得と損失が出た所得を相殺できます。これを損益通算(そんえきつうさん)といいます。
総合課税には、所得が高くなるにつれて税率が高くなる累進税率(るいしんぜいりつ)が使われています。これに対して、他の所得とまとめてこの累進税率を適用することが望ましくないものについては、他の所得と合計せずに、その所得だけ分離して課税されます。これを申告分離課税(しんこくぶんりかぜい)といいます。不動産の売却に伴って得た譲渡所得については、申告分離課税のため、他の所得とは合算せず、個別に計算する必要があります。
銀行の預金利子や一部の配当などは、受け取る際に一定の税率で源泉徴収(げんせんちょうしゅう)されます。そのため、確定申告をする必要がなく、これを源泉分離課税(げんせんぶんりかぜい)といいます。
(こちらのページは、国税庁HP「土地や建物を売ったとき」を参考にしています。)