登記上の順位を確保しておくための登記
仮登記とは、あとで行われる本登記のために、あらかじめ登記上の順位を確保しておくための登記です。
一般的な不動産売買では、契約のときには手付金のみを受け渡し、後日の代金決済と同時に物件の引渡しと所有権移転登記を行いますが、契約締結から代金決済および物件引渡しまでに時間があるため、買主の地位が不安定になります。
たとえば、売主Aが、買主Bと売買契約を結んだ後に別のCにも二重に売却し、Cが先に所有権移転登記をすると、最初の買主Bは、不動産を取得することができません。なぜなら、権利変動の優劣は、登記の先後で決まるからです。
このようなときに仮登記を利用します。
契約のときに、Bが所有権移転の仮登記をしておけば、代金決済前にCに所有権移転登記されても、仮登記にもとづく本登記を行えば、登記の順位はCに優先し、Bは所有権取得を主張できます。
逆にいえば、不動産を取得したとしても、すでにその不動産に所有権移転仮登記がついている場合は、仮登記が本登記されると対抗できずに、所有権を失います。そのため、所有権移転仮登記がある不動産を取得するのは危険であることがわかります。
仮登記は、あくまでも「仮」の登記なので、順位を保全する効力しかなく、本登記をしてはじめて完全なものになります。しかし、仮登記があると、いつ本登記されるかわからないわけで、実際の影響力は、通常の登記とあまり変わりません。
仮登記の種類
仮登記には2種類あり、それぞれ不動産登記法第105条の1号と2号に定められているので、それぞれ「1号仮登記」「2号仮登記」と呼ばれます。
なぜ仮登記かというと、本登記のための条件が満たされていない場合に、仮に行うからで、登記の条件のうちの、何かが欠けているからです。1号仮登記は、登記申請の手続上の条件が欠けているのに対して、2号仮登記は、権利変動そのものという実体上の条件が欠けています。
1号仮登記とは、登記すべき実体上の権利変動はすでに生じているのに、申請手続上の条件が満たされていない場合に行う仮登記です。
- 登記申請に必要な書類がそろっていない
- 第三者の許可・同意・承諾が必要で、すでに得られているものの、それを証する書類が整わない
実際の1号仮登記には、抵当権設定仮登記のように、登録免許税の節約のために仮登記にとどめる便宜的な使い方が多く見受けられます。
許可がおりるのを待つケースは、1号仮登記に該当しないことに注意が必要です。たとえば、農地の所有権移転という権利変動は、農地法の許可がおりて、はじめて効力が生じるものであり、許可がおりるまでは実体上の要件が欠けているからです。この場合の仮登記は、2号仮登記になります。
2号仮登記とは、現時点では登記の実体的要件である権利変動が生じていないものの、将来生じる権利変動の請求権を有する場合に、それを保全するために行う仮登記で、請求権保全の仮登記といいます。
登記すべき権利変動が、一定の条件が実現した場合にはじめて発生する場合に、それまでの権利保全を目的とするものです。
農地法の許可を条件として売買契約をする場合は、2号仮登記を利用しますが、農地の売買は農地法によって制限され、農業委員会または都道府県知事(一定の場合は農林水産大臣)の許可を受けないと(一定の条件を満たさないと)、所有権移転ができません(市街化区域内の転用目的の売買を除く)。
この場合、許可を受けたときにはじめて売買契約の効力が生じるという条件付の契約を結んで、停止条件付所有権移転仮登記をします。停止条件とは、ある事柄が起こるまでは契約の効力を停止させておく条件で、ここでは農地法の許可がそれにあたります。
(農地売買の2号仮登記の例)
1号仮登記の「登記の目的」欄が、たんに「所有権移転」の仮登記であるのに対して、2号仮登記では、「所有権移転請求権」、「条件付所有権移転」のように、まだ所有権移転そのものが起きていないことを示します。
不動産売買で、契約時には手付金を払うだけで、あとで代金決済・引渡しを行う場合は、契約時に権利保全のために所有権移転仮登記をすることがあります。この仮登記は、2号仮登記に該当します。
仮登記を登記簿に記載するにあたっては、あとで本登記がなされることを予定して、仮登記の次に本登記を記入するスペースを確保しておき、「余白」と記載します。
あとで本登記をするときは、この空いているところに行いますが、本登記は仮登記と同じ順位番号なので、順位番号の欄は線で区切りません。
仮登記担保
抵当権および根抵当権設定にあたっても、仮登記を利用することがあります。仮登記担保は、「仮登記担保契約に関する法律」により整備された、担保のために仮登記を利用する方法です。この仮登記は、2号仮登記に該当します。
融資にあたって、債務が返済できない場合は、担保不動産を債権者(貸している側)が取得する取決めをし、債権者は、その権利を保全するために、代物弁済(金銭の代わりに物で支払うこと)を原因とする所有権移転仮登記をします。
(金銭債務の債務不履行を停止条件とする所有権移転請求権の仮登記)
債務者(借りている側)が返済できないときは、仮登記を本登記にして不動産を取得することにより、実質的に債権を回収します。このとき、不動産の価額が債権額より高ければ、差額を清算して債務者に返す精算義務を債権者は負います。
仮登記の本登記
仮登記の本登記申請に必要な情報は、基本的に、通常の登記と同じです。ただし、所有権仮登記の本登記では、登記上の利害関係を持つ第三者がいるときは、その承諾を得なければなりません。
利害関係を持つ第三者とは、仮登記のあとに所有権移転登記を受けた者ですが、自分の権利がなくなってしまうので、本登記を承諾することは普通ありません。この場合、所有権移転の本登記承諾を請求する裁判を起こし、確定判決を得て承諾に代えることができます。
(仮登記が本登記された例)
仮登記を本登記すると、仮登記の後に登記された所有権移転登記や抵当権設定登記は、本登記と両立しないので、職権で抹消されます(抹消された部分には下線がつきます)。
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