不動産の重要事項説明書の「都市計画法・建築基準法以外のその他の法令に基づく制限」において「土砂災害防止対策推進法」という項目があります。
どのような不動産が土砂災害防止対策推進法の対象となり、どのような制限を受けるのでしょうか。
ここでは、不動産の重要事項説明における土砂災害防止対策推進法について説明します。
次の不動産は「土砂災害防止対策推進法」について重要事項説明が必要です。
- 土砂災害警戒区域内
- 土砂災害特別警戒区域内
- 基礎調査により土砂災害のおそれがあると認められた区域内(土砂災害警戒区域等に相当する範囲)
土砂災害防止対策推進法(土砂災害防止法)とは
土砂災害防止対策推進法(土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律)は、土砂災害が発生するおそれがある土地の区域を明らかにし、警戒避難体制の整備と一定の開発行為の制限及び建築物の構造の規制に関する措置を定め、土砂災害の防止のための対策の推進を図ることを目的として2001(平成13)年に定められました。土砂災害防止対策推進法は「土砂災害防止法」とも略されます。
住民に土砂災害の危険性を認識してもらうとともに、土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域の指定を促進させるため、都道府県に対し、基礎調査の結果について公表することを義務付けています。
基礎調査
渓流や斜面など土砂災害により被害を受けるおそれのある区域の地形、地質、土地利用状況など土砂災害警戒区域の指定及び土砂災害防止対策に必要な調査のこと。
「土砂災害」とは、急傾斜地の崩壊、土石流または地滑り(これを急傾斜地の崩壊等といいます)を発生原因として生じる被害のことです。
都道府県知事は、急傾斜地の崩壊等が発生した場合に、住民等の生命または身体に危険が生じるおそれがあると認められる区域を土砂災害警戒区域(イエローゾーン)に指定することができ、危険の周知や警戒避難体制の整備が行われます。土砂災害警戒区域を「土砂災害防止法第7条第1項に該当する区域」と記載されることもあります。
「危険の周知や警戒避難体制の整備」というのは、①市町村地域防災計画への記載②災害時要援護者関連施設の経過避難体制③土砂災害ハザードマップによる周知の徹底④宅地建物取引における措置を指しています。
土砂災害警戒区域(イエローゾーン)内の宅地建物取引における措置
土砂災害警戒区域では、宅地建物取引業者は、当該宅地または建物の売買等にあたり、警戒区域内である旨について重要事項説明を行うことが義務付けられています。
また都道府県知事は、土砂災害警戒区域のうち、急傾斜地の崩壊等が建築物に損壊が生じ、住民等の生命または身体に著しい危害が生じるおそれがあると認められる区域を土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)として指定することができます。
土砂災害特別警戒区域内で、予定される建築物の用途が住宅・社会福祉施設・学校・医療施設等である場合は、原則として都道府県知事の許可を受けなければなりません。また、許可を受けた後でも予定建築物の用途及びその敷地の位置を変更する場合は、原則として都道府県知事の許可が必要です。加えて、建築物の構造規制(想定される衝撃等に対して建築物の構造が安全かどうか)、建築物の移転等の勧告が行われます。土砂災害特別警戒区域を「土砂災害防止法第9条第1項に該当する区域」と記載されることもあります。
土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)内の宅地建物取引における措置
土砂災害特別警戒区域では、宅地建物取引業者は、特別の開発行為において、都道府県の許可を受けた後でなければ当該宅地の広告、売買契約の締結を行うことはできず、当該宅地又は建物売買等にあたり、特定の開発の許可についての重要事項説明を行うことが義務付けられています。
詳しくは国土交通省のHPで確認することができます。
よく混乱しがちになるのが、土砂法(土砂災害対策防止推進法)と急傾斜地法を含む土砂三法(砂防法・地すべり等防止法・急傾斜地法)の違いです。
土砂法(土砂災害防止対策推進法)は、土砂災害の被害を受ける土地への対策としての法律ですが、土砂三法は、そもそもの災害発生源の規制と対策工事について定めています。土砂災害防止法は、土砂災害のおそれのある区域について、危険の周知、警戒避難体制の整備、住宅等の新規立地の抑制、既存住宅の移転促進などソフト対策を推進するものです。
また、土砂災害特別警戒区域内で住宅が絶対建てられないわけではないことに注意が必要です。
- 特定開発行為に対する許可制:都道府県知事の許可があれば、宅地分譲や社会福祉施設・医療施設などの建築を行うための開発行為は、基準に従ったものに限って許可されます。
- 建築物の構造規制:居室を有する建築物は、建築基準法で定められた構造耐力の基準に沿ったものに限って建築確認がおります。
- 建築物の移転等の勧告:著しい損壊が生じるおそれのある建築物の所有者等に対し、移転の勧告が図られ、住宅金融支援機構の支援などが受けられます。
土砂災害防止法の改正
こちらは、2014年に起きた平成26年8月豪雨による広島市の土砂災害の写真です。この土砂災害において、土砂災害警戒区域等の指定だけでなく、基礎調査すら完了していない地域が多く存在し、住民に土砂災害の危険性が十分に伝わっていないこと、土砂災害警戒情報が直接的な避難勧告等の基準にほとんどなっていないこと、避難場所や避難経路が危険な区域内に存在するなど、土砂災害からの避難体制が不十分な場合があることが認識されました。このことが2014(平成26)年11月の土砂災害防止法の改正の契機となりました。
この背景には、一般の市民から土地の資産価値の低下を嫌がる声が多く、指定が遅れていたという事実も見逃せません。国土交通省は2019年(平成31年・令和元年)度末までに、全ての都道府県で基礎調査を完了させる目標を達成し、土砂災害警戒区域は2023年12月末時点で約69万区域になります。(国交省参照:全国における土砂災害警戒区域等の指定状況)
(参考)土砂災害のおそれのある区域は次の手順で指定される
①土砂災害防止対策基本指針の作成(国土交通省):土砂災害防止対策の基本的事項、基礎調査の実施指針、土砂災害警戒区域等の指定指針等を作成
②基礎調査の実施(都道府県):区域指定及び土砂災害防止対策に必要な調査(地形、地質、土地利用状況等)を実施
③土砂災害のおそれのある区域(土砂災害警戒区域、土砂災害特別警戒区域)の指定(都道府県)
今回の土砂災害防止法の改正によって、都道府県が実施する基礎調査の結果について公表が義務づけられることに伴い、宅地建物取引業者は、基礎調査の結果が公表されている場合にはその結果についても、取引判断に重要な影響を及ぼす事項として、購入者等に対して行う重要事項説明において説明することが望ましいとされています。
具体的には、取引の対象となる不動産が、基礎調査により土砂災害のおそれがあると認められた区域内(土砂災害警戒区域等に相当する範囲)にある場合にはその旨と、当該範囲が土砂災害警戒区域等に指定される可能性があることを説明しなければなりません。
この基礎調査の結果について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為は、宅地建物取引業法第47条第1号に違反する場合があります。
(業務に関する禁止事項)
宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
1 宅地もしくは建物の売買、交換もしくは賃借の契約の締結について勧誘をするに際し、またはその契約の申込みの撤回もしくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為
イ 第35条第1項各号又は第2号各号に掲げる事項
ロ 第35条の2各号に掲げる事項
ハ 第37条第1項各号又は第2項各号(第1号を除く。)に掲げる事項
ニ イからハまで掲げるもののほか、宅地もしくは建物の所在、規模、形質、現在もしくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、賃借等の対価の額もしくは支払方法その他の取引条件または当該宅地建物取引業者もしくは取引の関係者の資力もしくは信用に関する事項であって、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの
こちらは東京都世田谷区成城の土砂災害特別警戒区域・土砂災害警戒区域を示した写真です。調査している物件が土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域に指定されているかどうかはGoogleやYahoo!で「◯◯市(区・町・村) 土砂災害(特別)警戒区域」と検索すれば調べることができます。また、もし役所で「土砂災害ハザードマップ」があれば取得した方が良いでしょう。
調査した結果、売買の対象となる敷地が土砂災害警戒区域内、土砂災害特別警戒区域内に該当する場合には、制限の内容を調査するとともに、不動産の重要事項説明書の「土砂災害防止対策推進法」の項目にチェックをつけて、制限内容を説明する必要があります。
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