こちらでは、特例容積率適用地区とはどのような地区なのか、詳しく説明します。
他の敷地で余っている容積率を、離れた土地に移転して活用する地区
特例容積率適用地区(とくれいようせきりつてきようちく)とは、都心部の高度利用を図るために、他の敷地で未利用となっている容積率を、離れた土地に移転して活用しようとする地区です。
ここでの高度(こうど)とは、小さな建物ではなくより大きな建物を建ててハイレベル(高次元)に土地を利用するという意味があります。
こちらは東京駅の写真ですが、2012年10月に開業当時の赤レンガ駅舎の姿に復元されました。その費用は500億円にのぼりましたが、東京駅の敷地の空中部分の容積率を、丸の内地区内の離れた敷地(ビル)に売却することによって調達しました。このように余っている余剰容積率は売買の対象となり、これを空中権売買(くうちゅうけんばいばい)といいます。
また、容積率移転を「容積飛ばし」とも言いますが、「大手町・丸の内・有楽町地区」はこの制度が利用できる特例容積率適用地区に指定されています。
特例容積率適用地区とは、第1種・第2種低層住居専用地域、田園住居地域、工業専用地域を除く用途地域内で、適正な配置と規模の公共施設を備えた土地の区域において、容積率の限度からみて未利用となっている容積の活用を促進して土地の高度利用を図るため都市計画に定める地区です。
特定行政庁は、特例容積率適用地区内の2以上の敷地(特例敷地)に係る土地について土地所有者等の申請があり、一定の要件に該当すると、それぞれの特例敷地に適用される容積率(特例容積率)を指定し、この指定は特定行政庁の公告によって効力を生じます。
特例容積率適用地区においては、建築物の高さは、その特例容積率適用地区に関する都市計画で建築物の高さ最高限度が定められたときは、当該最高限度以下でなければなりません。
(建築基準法第57条の2及び4より抜粋)
都心部に位置する大半の歴史的建造物などは、その容積率を使い切ってないことが多く、また将来に渡っても、寺や神社を高層化するということはほとんどありません。
東京駅も開業当時の姿を復元したため、高層化するつもりはないと考えられます。このような敷地で、使われずに残っている未利用の容積を他の敷地に上乗せし、土地の有効利用を図ろうとするのが特例容積率適用地区です。
例えば、都市計画により指定された容積率が500%で、同じ面積の2つの敷地があったとき、一方が100%までしか容積率を使っていなければ、移転された他方の建物は容積率が900%まで認められます。
(東京駅の余っている容積率は他の敷地にあるビルに移された)
特例容積率適用地区に指定された地区では、同じ地区内であれば、容積率を移転する敷地が隣接していなくても、建築敷地の容積率の一部を複数の建築敷地間で移転できます。
(特例容積率適用地区のイメージ:内閣府HPより参照)
一方、連担建築物設計制度では、隣接した土地でしか容積率を移転することができません。
上記には「特例容積率適用区域」と書かれていますが、2004年の法改正までは商業地域のみしか利用できなかったときにこのように呼ばれていたもので、第1種低層住居専用地域・第2種低層住居専用地域・田園住居地域・工業専用地域以外のすべての用途地域に適用されることになり、「特例容積率適用地区」の名称に変更されました。
特例容積率適用地区は、都市計画のなかでその範囲などが定められるだけであり、容積移転の適用は土地所有者など権利者からの申請に基づいて特定行政庁が指定します。このとき該当する2つ以上の敷地のことを「特例敷地」といいます。ただし、いくら容積率を使っていないからといっても、道路や線路、公園などは特例敷地にはなりません。
特例容積率適用地区は、都市計画法で定める「地域地区」の一つです。地域地区とは、都市計画区域内の土地を、どのような用途に利用するべきか、どの程度利用するべきかなどを定めて21種類に分類したものです。
マンション建替えの救世主?
特例容積率適用地区の適用例は上記の例ぐらいで、ごく一部に留まっています。街づくりが変わるほどのインパクトがあるため、なかなかそう簡単にまとまらないのかもしれません。
国土交通省の推計によると、2021(令和3)年12月末時点のマンションストック総数(既存中古マンション戸数)は、約685.9万戸であり、そのうち、1981年の建築基準法施行令改正以前の耐震基準(旧耐震基準)で建設されたものが約103万戸も存在しますが、2022年4月1日時点までに実際に建て替えられた例は270件にとどまっています(マンション再生協議会のHP、国交省資料による)。
建て替えられたケースを見ると、敷地の容積率が余っている団地の建替えが中心です。団地の建替えの場合は、かつて低層かつ平面駐車場で建てられたために敷地の容積率が余っていることが理由であり、不動産デベロッパーが建て替えでマンションを高層化し、新たに造られた住戸を販売しても採算が合うため建替えができているのです。
改正マンション建替え円滑化法により容積率の緩和も進んではいますが、現状の建物が、建ぺい率や容積率がギリギリで建てられていて、建替えの採算が合わなくてどうにもならない場合などにおいて、特例容積率適用地区制度が、老朽マンションの建替えなどに今後応用されることが期待されています。
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