急傾斜地崩壊危険区域(きゅうけいしゃちほうかいきけんくいき)とは、がけ崩れによる被害を防止したり、軽減したりするため、がけ崩れを引き起こしたり助長するような行為を制限する必要がある土地や、がけ崩れ防止工事を行う必要がある土地に指定されるもので、指定されると必要な施設(排水施設、擁壁等)を設置しなければなりません。
実質、掘削などが必要となる住宅(戸建・マンション)の建築は都道府県知事の許可が必要です。
急傾斜地とは、傾きが30度以上ある土地を指しており、つまり崖(がけ)のことです。
(対策工事が必要な急傾斜地)
がけ崩れとは、地中にしみ込んだ水分が土の抵抗力を弱め、雨や地震などの影響によって急激に斜面が崩れ落ちる現象のことで「土砂災害」の一つです。突然起きるため、人家の近くで起きると逃げ遅れる人も多く死者の割合も高くなっています。平野が少ない日本では、多くの人が危険ながけ地に隣接して居住せざるを得ないという状況にあり、毎年各地で崖崩れが発生しています。
ここでは、急傾斜地崩壊危険区域についてまとめました。
急傾斜地崩壊危険区域とは
急傾斜地崩壊危険区域は、急傾斜地法(急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律)に定められています。
都道府県知事は、この法律の目的を達成するために必要があると認めるときは、関係市町村長(特別区の長を含む。以下同じ。)の意見をきいて、崩壊するおそれのある急傾斜地で、その崩壊により相当数の居住者その他の者に危害が生ずるおそれのあるもの及びこれに隣接する土地のうち、当該急傾斜地の崩壊が助長され、または誘発されるおそれがないようにするため、第七条第一項各号に掲げる行為が行なわれることを制限する必要がある土地の区域を急傾斜地崩壊危険区域として指定することができる。
つまり、急傾斜地崩壊危険区域とは、「崩壊するおそれがある急傾斜地で、崩壊すると相当数の居住者などに危害が生ずるおそれがあるところについては、急傾斜地の崩壊を助長・誘発する行為を制限する区域」ということになります。
具体的な「急傾斜地の崩壊を助長・誘発する行為」は、次のような行為です。
急傾斜地崩壊危険区域内においては、次の各号に掲げる行為は、都道府県知事の許可を受けなければ、してはならない。ただし、非常災害のために必要な応急措置として行なう行為、当該急傾斜地崩壊危険区域の指定の際すでに着手している行為及び政令で定めるその他の行為については、この限りでない。
一 水を放流し、または停滞させる行為その他水のしん透を助長する行為
二 ため池、用水路その他の急傾斜地崩壊防止施設以外の施設または工作物の設置または改造
三 のり切、切土、掘さくまたは盛土
四 立木竹の伐採
五 木竹の滑下または地引による搬出
六 土石の採取または集積
七 前各号に掲げるもののほか、急傾斜地の崩壊を助長し、または誘発するおそれのある行為で政令で定めるもの
一般的に、自分の土地が傾斜地の場合は、土地の所有者として傾斜地の崩壊防止工事を行う必要がありますが、急傾斜地崩壊危険区域に指定された場合は、都道府県が崩壊防止工事を行う場合が多いです。だからといって、お得なわけではなく、危険な地域であることにかわりはありません。
(対策工事後の急傾斜地)
また、擁壁など崩壊防止工事によって恩恵を受ける人(所有者)が一部費用を負担する場合もあります。(受益者負担金といいます)
急傾斜地崩壊危険区域についてのQ&A
ここでは、急傾斜地崩壊危険区域についてよくある質問についてまとめました。
指定するのはだれ?管理するのはだれ?
急傾斜地崩壊危険区域を指定するのは都道府県知事です。多くは都道府県の土木事務所で管理されています。
指定される基準は?
指定基準は次のとおりです。
- 斜面(がけ)の高さが5m以上であること
- 斜面の勾配が30度以上であること
- 原則として、被害想定区域内に5戸以上あること
- 5戸未満でも官公署、学校、病院、旅館等に危害が生じるおそれがあること
高さが5m未満の崖は、がけ条例によって制限されます。
どこで指定区域を確認できるのか
(急傾斜地崩壊危険区域の看板)
現地に標識が設置されます。急傾斜地崩壊危険区域の確認は、住宅地図に行為を行う場所を記載し、位置を特定できる資料を用意した上、所管の土木事務所や治水事務所で確認できます。
制限される行為とは?
急傾斜地崩壊危険区域内で次のような行為をするときは、都道府県知事の許可が必要です。
- 水を放流し、または停滞させる行為その他水のしん透を助長する行為
- ため池、用水路その他の急傾斜地崩壊防止施設以外の施設または工作物の設置または改造
- のり切、切土、掘さくまたは盛土
- 立木竹の伐採
- 木竹の滑下または地引による搬出
- 土石の採取または集積
- その他、急傾斜地の崩壊を助長し、または誘発するおそれのある行為で政令で定めるもの
「急傾斜地崩壊防止施設以外の施設」には、当然「建物」も含まれるため、都道府県知事の許可の上、住宅(戸建・マンション)の建築が認められます。
急傾斜地崩壊危険箇所との違い
航空写真での判読や現地調査、災害の記録から地すべりの発生のおそれがあり、人家や公共施設に被害が生じるおそれのある箇所を急傾斜地崩壊危険箇所(きゅうけいしゃちほうかいきけんかしょ)といいます。条件は、急傾斜地崩壊危険区域と同じで、高さが5m以上、傾斜度が30度以上の崖です。
現在公表されている急傾斜地崩壊危険箇所というのは、身近にある「がけ崩れのおそれがある箇所」を確認し、がけ崩れへの備えや警戒避難に役立てるために公表されているものであり、法的規制はなく、急傾斜地法に基づく区域ではありません。
急傾斜地崩壊危険区域は、現にがけ崩れ発生の可能性がある箇所やがけ崩れが起きた場所に対して、がけ崩れ防止対策施設の設置や一定の開発行為を制限するための区域なので、全く異なります。
土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域(土砂災害防止法)との違い
急傾斜地崩壊危険区域は、土砂災害の発生源(がけ崩れ)に対する規制や対策工事を行うために指定される区域であり、土砂三法(急傾斜地法・地すべり法・砂防法)の一つとして定められています。
日本は、山地が7割を占めているため、地質的にもろく、毎年梅雨時期の集中豪雨や台風の大雨などにより頻繁に土砂災害が発生しています。土砂災害から生命や財産を守るため、従来から対策工事を行っていますが、土砂災害危険箇所は多く、すべての危険箇所に対して対策工事を完了するには、大変な時間と費用がかかります。
土砂災害防止法(土砂災害防止対策推進法[土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律])は対策工事だけではなく、土砂災害が発生するおそれがある土地の区域を明らかにし、警戒避難体制の整備などのソフト対策を推進することで、住民などの生命や身体を土砂災害から守るために制定されました。
この「土砂災害が発生するおそれがある土地の区域を明らか」にしたものが、土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域で、土砂災害(がけ崩れ)によって被害を受ける土地対策のための区域というところに違いがあります。
つまり、土砂災害危険区域(土砂災害特別危険区域)は、急傾斜地崩壊危険区域(もしくは、地すべり防止区域など)を含んでおり、かぶることがほとんどです。
・土砂災害特別警戒区域・土砂災害警戒区域についてわかりやすくまとめた
急傾斜地崩壊危険区域に指定されたらどうしたらいいの?
急傾斜地崩壊危険区域内に標識が設置されるので、確認することができます。区域内から区域外への住宅移転に際し、補助を受けることができます。
不動産取引(売買・交換・賃借)においては、宅地建物取引業者は、対象物件が「急傾斜地崩壊危険区域」内である旨を記載した重要事項説明書を交付し、説明を行わなければなりません。(宅建業法第35条)
急傾斜地崩壊危険区域にある不動産は安くなるのか
結論からいうと、急傾斜地崩壊危険区域に指定されると不動産価値は下がります。
国は「コンパクトシティ」の概念を打ち出し、立地の良い場所に「集まって住む」ことを政策としておしすすめています。そこで各自治体は、集まって住むべき場所として「居住誘導区域」を設定していますが、急傾斜地崩壊危険区域は、原則として、居住誘導区域に含まないこととすべき区域に定められています。
居住誘導区域内の不動産価格は維持されますが、居住誘導区域外の不動産価値は下落します。
急傾斜地崩壊危険区域の調べ方
急傾斜地崩壊危険区域は、都道府県により管理されており、インターネットにより情報公開されている自治体は次のとおりです。ただし、市区町村レベルで急傾斜地崩壊危険区域を公表している自治体もあるためGoogleやYahoo!で「◯◯(市区町村) 急傾斜地崩壊危険区域」と調べてみてください。また、不動産の近くに崖がある場合は、急傾斜地崩壊危険箇所に指定されていないかどうか調べ、もし、指定されている場合は、急傾斜地崩壊危険区域に指定されていないか都道府県庁に調べにいきましょう。土砂災害危険区域や土砂災害特別危険区域に指定されている場合も同様です。
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※こちらのページは国土交通省HPを参照しています。
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