不動産の重要事項説明書の「都市計画法・建築基準法以外のその他の法令に基づく制限」において「森林法」という項目があります。
どのような不動産が森林法の対象となり、どのような制限を受けるのでしょうか。
ここでは、不動産の重要事項説明における森林法について説明します。
次の不動産は「森林法」について重要事項説明が必要です。
- 地域森林計画対象民有林
- 施行実施協定内
- 保安林予定森林
- 保安林
森林法とは
森林法は、森林計画、保安林その他の森林に関する基本的事項を定め、森林の保続培養と森林生産力の増進を図ることを目的として1951(昭和26)年に定められました。
森林は、天然林と人工林に分かれ、人工林については、植林により計画的な森林をつくるための森林計画を策定します。森林計画には、国(農林水産大臣)が立てる全国森林計画に即して、都道府県知事が策定する地域森林計画(造林・伐採・林道整備などの基本計画)がたてられ、これを基に市町村が策定する市町村森林整備計画、さらにこれを基に各森林所有者が策定する森林施業計画があります。
地域森林計画の対象となっている民有林を地域森林計画対象民有林といい、土地の形質の変更等の開発行為を行う場合は、都道府県知事の許可が必要です。地域森林計画対象民有林は、国有林と保安林以外のほとんどの森林が該当します。
【地域森林計画対象民有林における制限行為】
地域森林計画の対象となっている民有林において開発行為をしようとする者は、原則として都道府県知事の許可を受けなければなりません
市町村の区域内にある民有林の所有者は、一体として整備することが良いとされる森林について、市町村長の認可を受けて、森林施業の共同化のために必要な施設の整備に関する施業実施協定を締結することができ、施業実施協定の公告の後に森林の所有者になった者にも効力が及びます(承継効)。
【施業実施協定内の制限行為】
施業実施協定の認可の公告のあった施業実施協定は、その公告後に当該施業実施協定の対象とする森林の森林所有者等または当該森林の土地の所有者等となったものに対してもその効力が及びます。
保安林とは
保安林とは、土砂の流出を防いだり、水源を守るためなどの森林として、森林法にもとづき農林水産大臣が指定した山林で、現時点で生育しているか否かは問われません。目的を達成するために次の17種の保安林があります。
- 水源涵養(かんよう)保安林…水不足や洪水を防ぐ:森林は、雨水が一挙に流れるのを防ぎ、地中に浸透させながら、徐々に河川に流し込みます。そうして河川の流量を平均化し、洪水や渇水を防ぎます。
- 土砂流出防備保安林…土砂が流れ出すのを防ぐ:森林が地表を覆うことで、雨による表土の侵食や土砂の流出を防ぎます。
- 土砂崩壊防備保安林…土砂くずれ、山くずれを防ぐ:樹木の根が地中に張ることで、土砂の流出や山崩れを防ぎます。
- 飛砂防備保安林…海岸の砂が飛んでしまうのを防ぐ:海岸の砂地に木を植えて、砂が飛ぶのを防ぎます。
- 風害防備保安林…強い風を防ぐ:森林が防風壁の役割を果たし、風による被害を防ぎます。
- 水害防備保安林…河川のはんらんによる被害を防ぐ:洪水のときの水の流れを弱め、水害を防ぎます。
- 潮害防備保安林…津波や高潮による被害を防ぐ:海岸沿いの森林は、高潮の防壁となり、海風の塩分を吸収します。
- 干害防備保安林…農作業用のため池などが枯れるのを防ぐ:森林の蓄水機能により、灌漑用水などの水源を確保し、渇水を防ぎます。
- 防雪保安林…雪による被害を防ぐ:森林が、吹雪に対する防壁の役割を果たし、住宅、道路や鉄道を守ります。
- 防霧保安林…霧(きり)による被害を防ぐ:樹木の枝葉が、ネットの役割を果たして霧の拡散・移動を抑え、農作物の被害などを防ぎます。
- なだれ防止保安林…なだれの発生やなだれによる被害を防ぐ:樹木が雪の滑り出しを抑えて雪崩発生を防ぎ、また雪崩の勢いを弱めます。
- 落石防止保安林…落石の発生やなだれによる被害を防ぐ:樹木の根が地中に張り廻されることにより、岩石の崩落を防ぎ、また崩落した岩石を押しとどめます。
- 防火保安林…火事が広がるのを防ぐ:燃えにくい種類の樹木を植えることで、森林火災の延焼を防ぎます。
- 魚つき保安林…魚の住みやすい環境を助ける:樹木が水面に陰をつくり、同時に、海に流れ込む水質の汚濁を防いで、魚の生育環境を保護します。
- 航行目標保安林…船の航行時の目印となる:海岸の森林は、船舶の目標となって安全を確保します。
- 保健保安林…レクレーションの場になる:森林の空気浄化作用により、森林浴のように保健・休養の場を提供します。
- 風致保安林…名所や古くからの景色を保つ:名所や旧跡にある森林は、景観上、重要な役割を果たします。
全体の7割を占めるのが水源涵養保安林で、それに土砂流出防備保安林を加えると9割を超えます。
保安林について、立木の伐採や土地の形質の変更などを行うには、都道府県知事の許可等が必要です。また、保安林の指定予定である保安林予定森林については、90日を超えない期間内において立木竹の伐採、土地の形質の変更を禁止することができます。
【保安林予定森林における制限行為】
都道府県知事は告示があった保安林予定森林について、90日を超えない期間内において、立竹木の伐採または土石の採掘等の土地の形質を変更する行為を禁止することができます。
(森林法第31条)
【保安林における制限行為】
保安林においては、原則として都道府県知事の許可を受けなければ、立木の伐採等の行為をしてはなりません。
(森林法第34条)
保安林の種類ごとに、伐採(ばっさい)の方法や面積などの許可基準が定められています。伐採には、すべての木を切ってしまう皆伐(かいばつ)、一部の木だけを切る択伐(たくばつ)、間引きにあたる間伐(かんばつ)があります。
山林を開発するには、まず樹木の伐採が必要ですが、保安林では伐採に対する規制が厳しく、結果として開発が困難となっています。
魚つき保安林
こちらは新潟県村上市岩ケ崎地区の魚つき保安林です。
村上市を流れる三面川河口に建立されている多岐神社には、タブノキを主体とした森林がありますが、昔から通称「お多岐さまの魚つき林」と呼ばれており、「サケ(鮭)を呼ぶ森」として市民から親しまれてきました。
この起伏に富む地形にある森林が水面に陰をつくることにより、河口付近を回遊する魚が外敵からの危険を回避できる安全な生息地となっています。このため、江戸時代には藩財政の基盤である地域資源としてのサケの保全を図るため、その習性を知る村上藩は、この森林を「お留山」として管理し、やみくもに木を伐らせず、森林を大切にしてきました。現代では、この森林を森林法規定の制限林の一種である「魚つき保安林」として指定し、守り続けています。
地域森林計画対象の民有林と保安林
こちらは近畿地方の地域森林計画の対象の民有林と保安林を示した地図です。
地域森林計画対象の民有林、保安林に関する事項は都道府県または市町村で、施業実施協定に関する事項は市町村で確認することができます。
調査している山林が保安林の指定を受けているかどうかは、基本的に登記簿謄本を見て調べます。保安林の指定を受けているときは、地目の欄に保安林と表示されているのが原則です。
また、現地には保安林であることを示すために、道路沿いなどに看板や標識がたてられますが、確実ではないため、現在指定されているかどうかは、役所にある保安林台帳とその附属図面を閲覧して確認します。
調査した結果、売買の対象となる不動産が、地域森林計画対象民有林、保安林、保安林予定森林、施行実施協定内に該当する場合には、制限の内容を調査するとともに、不動産の重要事項説明書の「森林法」の項目にチェックをつけて、制限内容を説明する必要があります。
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