家や土地などの不動産を複数人で相続するとき、とりあえず相続人全員の共有名義にするケースがあります。しかし、共有名義での不動産相続はトラブルになることが多いため注意が必要です。
こちらでは、共有名義で不動産を相続する際にどのようなトラブルが発生しやすいのか、またトラブルを回避する方法や共有名義を解消する方法などについてわかりやすく説明します。
- 複数の相続人で不動産を相続する「共有名義での相続」は、なぜトラブルになりやすいのか
- 不動産を共有名義で相続する場合の持分割合は、どのようにして決めることになるか
- 共有名義を解消するために不動産を複数の相続人で分ける場合、どのような方法があるか
- この記事はこんな人におすすめ!
- 複数の相続人で家や土地などの不動産を相続した人
- とりあえず相続した不動産を共有名義にしようとしている人
- 兄弟など複数の相続人で不動産を分ける方法を知りたい人
1.共有名義での不動産相続とは?
共有名義とは、1つの不動産を複数人で所有していることです。
つまり、「共有名義での不動産相続」とは、複数の相続人で家や土地などの不動産を相続し、1つの不動産に対して複数の名義人がいる状態のことを指します。
1-1.共有名義での相続でも相続登記が必要
共有名義で家などの不動産を相続した場合であっても、単独名義で相続した場合と同様に相続登記は必要です。
2024年4月から不動産を相続した場合の相続登記申請が義務化されたため、不動産を相続したら、相続登記申請を必ずしなければなりません。
相続登記申請は、被相続人(亡くなった人)と相続人(相続する人)について、戸籍謄本や住民票など、さまざまな書類を揃えて申請書と共に法務局に提出します。
自分で相続登記をすることも可能ですが、手続きが煩雑で提出書類を揃えるのが大変なので、司法書士に依頼することが多いです。
相続登記申請をして、名義人が亡くなった人から相続人に変更されると、共有名義人全員に登記識別情報通知書が発行されます。
相続登記申請の方法や義務化については、「相続登記申請が義務化!名義変更のやり方、注意点をわかりやすく解説」でくわしく説明していますので、ぜひ読んでみてください。
1-2.共有名義の持分割合について
複数の相続人で不動産を相続する際に決めなければならないのが、誰がどのくらいの割合で不動産を所有するかという「持分割合」です。
遺言があれば遺言の内容に従って、遺言がなければ法定相続分(民法によって定められた各相続人の相続割合)に基づいて、それぞれの相続人の持分割合が決まります。
たとえば、世帯主が亡くなって家だけを妻と子1人が相続する場合、法定相続分に従えば、母親が1/2、子が1/2の共有名義で相続登記するのが基本です。
母と子1人ならばそれほど問題にならないかもしれませんが、共有名義人となる相続人が多ければ多いほど、持分割合でトラブルになる可能性は高まります。
法定相続分通りに分けない場合は、「誰に、どれくらい」持分割合を分けるのかを相続人同士で話し合い、話し合った内容を遺産分割協議書にまとめなければなりません。
2.共有名義で不動産を相続する問題点
共有名義で家を相続すると、次のような4つの問題が生じる恐れがあります。
- 遺産分割協議がまとまらない
- 共有者全員が同意しなければ売却や活用ができない
- 固定資産税や管理費などの負担で揉める
- 新たな相続によってさらに持分が複雑になる
それぞれの問題について、くわしく説明します。
2-1.①遺産分割協議がまとまらない
相続する財産が、亡くなった方(被相続人)の自宅のみで、かつ相続人が複数いるような場合、家の持分割合を決める際に揉める可能性が高くなります。
遺言がない場合は、それぞれが受け取るのは基本的に法定相続分です。
法定相続分通りに分けない場合は、相続人同士で遺産分割協議をして決めることになりますが、寄与分や特別受益で揉めるケースも考えられます。
2-1-1.寄与分(きよぶん)とは
寄与分とは、亡くなった方の財産の維持や管理に貢献したと考えられる人に与えられるものです。
たとえば、介護や同居していた親族などが相続人になる場合に考慮されるケースがよくあります。
2-1-2.特別受益(とくべつじゅえき)とは
特別受益とは、亡くなった方が生前、特定の相続人(相続する人)に対して、ほかの相続人以上の資金などを提供していた場合に考慮されるものです。
たとえば、兄弟のうち兄だけが大人になってもずっと生活費を提供してもらっていたりマイホーム資金を提供してもらっていたりする場合に考慮されるケースがあります。
寄与分や特別受益については、「家を相続したときの話し合いと家を分ける方法についてまとめた」でくわしく説明しているので、ぜひ参考にしてみてください。
2-1-3.遺留分(いりゅうぶん)とは
遺言があったとしても、遺留分を主張する人がいれば、遺言通りに相続されず、協議が長期化することもあります。
遺留分とは、民法で最低限保証されている相続割合のことで、遺留分が請求できるのは、配偶者と子、父母のみです。
遺留分については「遺言書がある場合の家の相続手続きについてわかりやすく説明する」でくわしく説明しているので、ぜひ読んでみてください。
2-2.②共有者全員が同意しなければ売却や活用ができない
スムーズに相続した不動産の持分割合が決まったとしても、共有者が多いと将来的に揉めることもあります。
なぜなら、共有名義の不動産は、共有者全員が同意しなければ売ったり活用したりできないからです。一人でも「売るのは反対」や「人に貸すのはイヤ」などと言いだせば、売却することも活用することもできません。
さらに、いざ売却するという話になっても、媒介契約書や売買契約書、売買代金の領収証などには共有名義人全ての記名と実印による押印が必要になるため、手続きに手間がかかるという問題もあります。
2-3.③固定資産税や管理費などの負担で揉める
共有名義の家に相続人のうちの誰かが住むのであれば、その人が固定資産税や管理にかかる費用を支払うことになるケースが多いです。
しかし、空き家のままでとりあえず置いておくケースなどでは、誰が固定資産税や管理費などを負担するかが揉める原因となります。
持分割合に応じて負担するのが一般的ですが、支払いをしない共有名義人がいると、代表者やほかの名義人全員で負担しなければなりません。
2-4.④新たな相続によってさらに持分が複雑になる
不動産を共有名義にしていた場合、名義人の一人が亡くなると、その持分が次の相続人に引き継がれることになります。
たとえば、亡くなった父の不動産を母と息子(妻と子どもがいる)の共有名義にしていたケースで、息子が亡くなってしまった場合、息子の持分を相続するのは息子の妻と子どもです。
このように共有者が死亡して相続人の世代交代が進むと、共有者の数が増え、不動産の権利関係がさらに複雑化することになってしまいます。
親しい仲であるうちは問題がありませんが、細分化していくと共有者がだれなのかわからなくなり、連絡もとれず、家をどうすることもできないという状態になりかねないのです。
不動産は共有持分(それぞれの人がその不動産について持っている所有権の割合のこと)のみ売却することも可能ですので、赤の他人と共有者になる可能性もあります。
3.共有名義での不動産相続を回避する方法
相続した不動産を共有名義で相続する際にトラブルが発生しやすいのは、「不動産」という分割できないものを複数人で共有するからです。
共有トラブルを回避する方法として、次のようなものがあります。
- 代償分割する
- 換価分割する
- 土地なら分筆という方法もある
これらの方法について、くわしく説明します。
3-1.代償分割する方法
代償分割とは、相続人の誰か1人が不動産を取得して、他の相続人には代償金を支払うことによって清算する方法です。
次のようなケースでよく用いられます。
- 相続財産が亡くなった人の家のみ
- 相続人が複数いる
- 相続人のうちの一人が相続した家に住んでいる
上記の場合で、次のようなケースを想定してみます。
- 相続財産は評価額3,000万円の家のみ
- 相続人が3人
- 持分は1/3ずつ
このとき、相続した家を3人の共有名義とすることもできますが、そのうちの1人が住むのであれば、ほかの2人からすると不公平な相続方法ともとれます。
このようなケースで代償分割をする場合の流れは、次のとおりです。
- 家に住む人が3,000万円の価値がある家を相続する
- 家を相続した人が残りの2人に1,000万円ずつ現金を渡す
こうすることで、それぞれの相続人が1,000万円ずつ相続したとみなすことができるため、公平感が保たれます。
3-2.換価分割する方法
換価分割とは、相続した家を売却し、売却によって得られたお金を相続割合で分割するという方法で、次のようなケースで用いられることの多いです。
- 相続財産が亡くなった人の家のみ
- 家と現金などを含めた相続財産がうまく分割できない
- 相続人が複数いてだれも相続した家に住まない
もちろんこの場合も、自宅を相続人全員の共有とすることができます。しかし、分割できない家を「持分」で分けると、トラブルになる可能性が高いというのは前述の通りです。
不動産はだいたいの金額であれば、不動産会社に査定してもらうなどで、家の価格を知ることができますが、売却するまでは実際にいくらで売れたのかということは誰にもわかりません。
そう考えれば、代償分割よりも換価分割の方がより公平に分け合える方法だといえます。
相続時に換価分割する場合は、便宜上、相続人のうちの1人が代表者として売却活動することが一般的です。そうすることで、共有不動産にして売却するよりも、手間が少なくすみます。
売却するときの流れについては「相続した不動産を売却する流れや手続き、やるべきことをわかりやすく解説」で説明していますので、ぜひ読んでみてください。
3-3.土地なら分筆という方法も可能
建物は分割することができませんが、土地なら分割(分筆:ぶんぴつ)するという方法もあります。
たとえば、300㎡の大きな土地を3人で相続する場合、この土地を3人の共有名義とすることもできますが、100㎡ずつ3つに分筆して、それぞれの土地を各人が相続することも可能です。
分筆してしまえば100㎡の土地の使い道は各人の自由なので、売りたい人、活用したい人がいる場合にも揉めずにすみます。
ただし、分割することで土地の価値が下がる場合があることに注意が必要です。
先の例だと、100㎡ずつ分筆して売却するより、300㎡のままで売却した方がトータルでみると高く売れるという事例も少なくありません。
また、分筆した土地がすべて同じ条件になるとは限らないことにも注意が必要です。接道や方角などにより、土地の評価額が違ってくるため、まったく同じように分筆することはむずかしいと言えます。
相続で土地を分筆する場合は、このあたりのこともよく検討するようにしましょう。
3-4.リースバックで代償分割と換価分割の問題が解決できる場合がある
相続人の間で、希望する分割方法が異なる場合があります。
たとえば、相続人のうちの1人が、相続対象となる家にこれまで住んでいたような場合、住み続けるにはほかの相続人に代償金を支払って所有権を得るのが一般的な方法です。
しかし、住み続ける相続人に代償金が支払えるだけの資力がなければ、家を売って換価分割することになり、これまで住んでいた相続人は家を出ていかなければなりません。
そのような問題は、リースバックによって解決できる場合があります。
リースバックとは、家を売却してまとまった売却代金を得て、その後、賃貸として住み続けられるという売却方法です。
まず、相続した家をリースバックで売却した代金を相続人間で分け、その後、これまで住んでいた相続人が賃貸として住み続ければ、代償分割と換価分割の問題が一度に解決できます。
リースバックの仕組みや利用の流れについては、「【リースバックのまとめ】家を売っても住み続けられる!利用方法や注意点を詳しく解説」でわかりすく説明しているので、ぜひ読んでみてください。
まとめ
この記事のポイントをまとめました。
- 「共有名義での不動産相続」とは、複数の相続人で家などの不動産を相続することを指し、単独名義での不動産相続と同じように相続登記しなければならない
- 共有名義で不動産相続する場合、それぞれの相続人の持分割合は、遺言があれば遺言に従って、なければ法定相続分に基づいて、法定相続分以外の割合にする場合は、遺産分割協議で決定する
- 相続した不動産を共有名義にすると、次のようなトラブルが発生しやすくなる
・寄与分や特別受益などにより、分割協議がまとまらない場合がある
・共有者全員が同意しなければ売却や活用ができない
・固定資産税や管理費などの負担で揉める恐れがある
・新たな相続によってさらに持分が複雑になる - 共有名義での不動産相続を回避する方法として、次のようなものがある
・代償分割する方法
・換価分割する方法
・土地なら分筆という方法も可能
不動産を相続する際の話し合いで相続人同士が揉めてしまったとき、とりあえず共有名義にすることで丸く収めるという選択をしてしまいがちです。
しかし、共有名義での相続登記は、単に問題の先送りにしかならず、後々トラブルになるリスクが高いと言えます。
一度、共有名義にしてしまうと、単独名義にするためには再度話し合いをし、手続きを踏まなければなりません。当然、費用もかかります。
したがって、家などの不動産を複数人で相続した場合は共有名義にせず、「代償分割」や「換価分割」で分けるほうが賢明です。
代償分割や換価分割を検討するときは、そもそも相続した家がどれぐらいで売れるのかをあらかじめ知っておく必要があります。なぜなら、相続人がその金額に納得して、代償分割や換価分割が行われるからです。
また、換価分割しても住み続けたい相続人がいる場合は、売却してから賃貸するリースバックという方法もあります。
相続した家がいくらぐらいになるのかを知りたい人や、自分の場合はどうすれば良いのかわからないという人は、ぜひイクラ不動産をご利用ください。
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