一戸建ての査定は、経年劣化のある建物部分と土地部分とに分けて行われます。
その際、建物部分の査定額を出すために用いられるのが「原価法」という査定方法です。
ここでは、原価法で一戸建ての建物部分の査定額を出す手順や計算方法について、わかりやすく説明します。
- 一戸建ての査定が、建物部分と土地の部分に分けて行われる理由がわかる
- 一戸建ての建物部分の査定額を出す「原価法」の計算方法についてわかる
- 一戸建ての建物評価が、どのように改善されつつあるかがわかる
- この記事はこんな人におすすめ!
- 一戸建ての売却を考えている人
- 一戸建ての査定方法や査定額を知りたい人
- リフォームをしている一戸建ての査定方法を知りたい人
もくじ
1.一戸建ての査定は「建物」と「土地」に分けて行う
一戸建ての査定は、さまざまな不動産の不動産の中でもむずかしいと言われています。
なぜなら、建物と土地という、まったく性質が異なるものを同時に査定しなければならないからです。
原価法について説明する前に、まず、一戸建ての査定についてわかりやすく説明します。
1-1.「建物」と「土地」に分けて査定しなければならない理由
一般的に、一戸建ての査定額は「建物」と「土地」に分けて計算されます。
なぜなら、建物は建てられたときの価値が最も高く、築年数が経つにつれて経年劣化により価値が減少していくのに対して、土地は経年劣化はしないものの、社会情勢や景気によって価格が大きく変動するからです。
そのため、土地と建物とをひと括りにして査定をすることができません。建物の部分と土地の部分とは、分けて査定をすることになるのです。
1-2.建物は「原価法」、土地は「取引事例比較法」で査定する
一戸建ての建物部分は、このあとでくわしく説明する「原価法」という方法で査定額が計算されます。
一方、土地の部分の査定額を出すときに用いられるのは「取引事例比較法」という査定方法です。
取引事例比較法とは、近隣にある査定したい物件と似ている物件が、過去に取引されて成約した事例を参考に査定額を算出する査定方法で、土地だけでなく、マンションの査定額を出すときにも使われます。
くわしくは、「土地の査定方法である「取引事例比較法」をわかりやすく解説!」で説明していますので、ぜひ参考にしてみてください。
2.一戸建ての建物査定で使われる「原価法」とは?
先に述べたように、原価法とは、居住用の不動産で、一戸建て(一軒家・中古住宅)の建物部分を査定するときに使われる査定方法です。
原価法を一言で説明すると、「今、同じ建物を建てるのに必要な費用から、経年劣化分を差し引いた建物の価値」となります。
2-1.「原価法」で査定額を計算する手順
原価法による査定額の計算は、次のような手順で行われます。
- 再調達価格を出す:同じ家を建てると、1㎡あたりどれくらいの費用がかかるかを調べる
- 家全体の再調達価格を出す:1㎡あたりの再調達価格に家の延床面積を乗じて家全体分の価格を計算する
- 減価修正する:家が建てられてから、経年劣化でどれくらい価値が減ったかを計算する
- 建物の査定額を出す:再調達価格を減価修正することで、現時点での査定額を計算する
したがって、原価法による建物の査定額の計算方法を式にまとめると、次のようになります。
原価法を計算するポイントとなるのは、再調達価格と減価修正(残耐用年数/耐用年数)の2つです。
それぞれについて、わかりやすく説明します。
2-1.再調達価格
再調達価格(さいちょうたつかかく)とは、今すでに建っている建物を取り壊したと仮定して、同じ建物をもう一度建てたときに、費用がいくらかかるのかを計算した額です。
新築時にかかる1㎡あたりの単価は、銀行など金融機関や不動産会社によって多少異なりますが、あらかじめ建物の構造や部材によって、次のように決められています。
標準的 | やや高単価 | 高単価 | |
木造 | 14.8万円/㎡ | 17.4万円/㎡ | 20.9万円/㎡ |
軽量鉄骨造 | 14.8万円/㎡ | 17.4万円/㎡ | 20.9万円/㎡ |
(重量)鉄骨造 | 15.6万円/㎡ | 18.3万円/㎡ | 22.0万円/㎡ |
RC(鉄筋コンクリート)造 | 18.8万円/㎡ | 20.9万円/㎡ | 25.1万円/㎡ |
SRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造 | 18.8万円/㎡ | 20.9万円/㎡ | 25.1万円/㎡ |
たとえば、延床面積100㎡の標準的な木造の家を、新築でもう一度建てたと仮定した場合の再調達価格は、次のような計算になります。
原価法で戸建ての建物部分の査定をする場合は、まずこのようにしで再調達価格を計算してみましょう。
2-2.減価修正
減価修正(げんかしゅうせい)とは、建物や建物の設備が経年によって劣化することで、価値が減った分を修正することです。
減価修正は、次の計算式で求めることができます。
ここでの耐用年数とは法定耐用年数です。
※法定耐用年数:不動産などの資産において、法令で画一的に定められている耐用年数のこと
建物の構造や目的(事業用か非事業用)によって、耐用年数は次のように定められています。
構造 | 耐用年数(事業用) | 耐用年数(非事業用) |
木造 | 22年 | 33年 |
軽量鉄骨造(3mm以下) | 19年 | 28年 |
重量鉄骨造 | 34年 | 51年 |
RC(鉄筋コンクリート造)・SRC(鉄骨鉄筋コンクリート造) | 47年 | 70年 |
例として、木造で築年数が15年、居住用(非事業用)として使われている家の減価修正を計算してみましょう。
この原価修正を再調達価格に乗じることで、現時点での建物の査定額が計算できます。
たとえば、先ほど再調達価格を算出した、「延床面積100㎡の標準的な木造の家」が築15年(減価修正0.55)の場合、原価法による査定額の計算式は次のようになります。
【築年数が15年で延床面積100㎡の標準的な木造の家の原価法による査定額】
ただし、築年数が耐用年数を超えている場合は、査定価格は、ほぼゼロと見なされる場合があるため注意が必要です。
このことについて、もう少しくわしく説明します。
2-2-1.「法定耐用年数」と「経済的耐用年数」について
耐用年数には、法定耐用年数と経済的耐用年数の2種類があります。
法定耐用年数とは、税務上、減価償却を計算する際に定められている耐用年数です。これに対して、経済的耐用年数とは、その建物が実際に使用できる耐用年数を指します。
減価償却についてのくわしい説明は、次のとおりです。
「減価償却」とは
減価償却とは、時間の経過や使用により価値が減少していく固定資産を取得した際に、購入費用をその耐用年数に応じて計上していく会計上の処理のことをいいます。
固定資産というのは不動産でいうと建物部分に該当します。たとえば、家を新築で購入して、20年後も新築と同じ価値というのは無理があります。その20年の間に、家の劣化が進み、キッチンや風呂などの設備も老朽化しているからです。
つまり、減価償却とは、時間が経過すると価値が下がる資産の価値を、正しく評価するために行なう作業であるといえます。不動産の土地部分のように、時間の経過や使用により価値が減少しないものは、減価償却資産には含まれません。
減価償却の目的は、不動産の取得のためにかかった費用を、最初に支払い時にすべて一度きりの費用とするのではなく、収益を得るために利用した期間に応じて経費として計上することが、企業会計にとって望ましいために使うとされています。
付け加えると、そもそも税金は、収入から経費を引いて残ったお金にかけられます。経費の方が大きくなると赤字になり、税金を払う必要がありません。
そこで、節税の方法のひとつとして、経費をできるだけ多く計上しようという考えになります。できるだけ収入に近い経費になると黒字額が少なくなり、税金が少なくて済むからです。
減価償却費は、数字上で価値が減っているだけなので、実際に支出した費用ではありませんが、経費として計上することができます。
このような法定耐用年数に対して、経済的耐用年数とは、実際に建物が十分に使用できる年数のことです。つまり、法定耐用年数よりも経済的耐用年数のほうが、より現実の建物の状態に即しており、本来なら経済耐用年数を用いるべきだとも言えます。
しかし、立地や建築方法、管理状態などによって、一戸建てが利用可能な年数は大きく異なるのにもかかわらず、これまで一律に耐用法定耐用年数が使われてきました。
このような査定方法は、現実の建物の状態を反映しているものとは言い難いため、近年、国が制度を変更すべく動き始めています。
3.住宅の性能やリフォームが建物の評価に反映される動きについて
不動産を所管している国土交通省は、2014年3月に「中古一戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」を策定しました。
この指針は、流通市場における中古戸建住宅の「家の建築後、20年から25年程度で一律に市場価値がゼロになる」とされるこれまでの既存住宅の取引慣行を改善し、住宅の性能やリフォームの状況などを的確に反映した評価に変更するというものです。
3-1.「中古一戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」で建物の評価がどのように変わるのか?
これまで、中古一戸建ての建物部分の評価は、リフォームをしても経年による下落ペースは変わりませんでした。
さらに、管理やメンテナンスがきちんと行われていることが前提となっており、メンテナンスの状況によってはマイナス評価になる場合もあるという、減点メインの査定方法だったのです。
しかし、今回の「中古一戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」では、建物の適切な補修やメンテナンスなどが行われているのであれば、建物の基礎や躯体の機能が失われていない限り建物の価値は回復、向上するという原則に基づいて、住宅の使用価値に応じた評価を行うべきだとされています。
つまり、下図のように、これまでだと経年によって価値がほぼゼロとされてきた建物であっても、リフォームやメンテナンスがきちんと行われていれば、建物の価値の下降が緩やかになるということです。
3-2.「既存住宅価格査定マニュアル」も改変
今回の「中古一戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」の策定と同時に、不動産会社が一戸建ての建物部分の査定で利用している公益財団法人不動産流通推進センターの「既存住宅価格査定マニュアル」も改変されました。
既存住宅価格査定マニュアルとは、不動産会社(宅地建物取引業者)が、査定を依頼した消費者に対して、納得しやすい査定価格の根拠を合理的に示す手法として作成されたツールです。
改変された「既存住宅価格査定マニュアル」では、中古一戸建ての各部位の仕様やリフォーム等も評価されるようになっており、それらを加点してくことによって建物全体の査定価格が算出されます。
具体的な評価内容は、以下の図のとおりです。
(不動産流通推進センターの価格査定マニュアルより引用)
不動産会社(宅地建物取引業者)は、このマニュアルのシステム上に物件の築年数や各部位のグレード、維持管理状態などの情報を入力することで、適正な査定価格を算出することが可能です。
不動産会社がこの改変されたマニュアルを用いることで、住宅の本来の使用価値を適正に反映した評価がなされることが期待されています。
しかし、このような仕組みは、国も制度の変更について動き始めたばかりということもあり、原価法の計算における耐用年数は、法定耐用年数を利用するのが現在も一般的であることを踏まえておきましょう。
まとめ
この記事のポイントをまとめました。
- 「原価法」とは一戸建ての建物部分の査定する方法で、同じ建物をもう一度建てた場合にかかる費用(再調達価格)に経年により劣化した分を差し引くこと(減価修正)で、現時点での価値を出す
- 原価法による査定額の計算式:原価法による査定額=再調達価格✕延べ床面積(㎡)✕減価修正(残耐用年数/耐用年数)
- 再調達価格の計算の基準となる額は、建物の構造やグレードによってあらかじめ決められている
- 減価修正の基準として使われる耐用年数には、現在は「法定耐用年数」が用いられることが多く、法定耐用年数が過ぎた建物は価値がほぼゼロと評価されることもある
- 「中古一戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」や「既存住宅価格査定マニュアル」の改変により、建物のリフォームや補修状況が正しく評価される方向に動き始めている
一戸建ての査定は、建物と土地に分けて行われ、建物の部分の査定には「原価法」が用いられます。
原価法における重要なポイントは、同じ建物をもう一度建てた場合にかかる費用「再調達価格」と、経年劣化でどれくらい価値が減ったかの「減価修正」です。
減価修正を算出する際には「法定耐用年数」が用いられることが多いため、リフォームしたり補修をしたりして大事にしてきた家でも、築年数が20〜30年になると価値がほぼゼロと評価されることもあります。
このような中古一戸建ての評価を変えようと、国交省が「中古一戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」を策定し、公益財団法人不動産流通推進センターの「既存住宅価格査定マニュアル」も改変されましました。
これにより、建物の仕様やリフォーム等に応じた評価が適正に行われ、築年数の経った一戸建てでも高く査定されるケースが増えると見込まれます。
しかし、現時点においては、まだ査定において法定耐用年数が用いられることが一般的であり、一戸建ての査定がむずかしいとされる状況は大きく変わってないと言えるでしょう。
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※こちらの記事は、価格査定マニュアルに関して(公財)不動産流通推進センターの掲載許可を受けています。価格査定マニュアルは、無断使用(複製、改ざん、頒布などを含む。)を固く禁じられております。
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