不動産を売却するときは、原則として名義人である所有者自身が契約を行わなければなりません。
しかし、やむを得ない事情で契約に立ち会うことができない場合は、代理人に契約を委任することができます。
しかし、代理人が行った法律行為は、本人が行ったものと同等の効力を発するため、委任する際は細心の注意が必要です。
そこで、こちらでは、不動産売却を代理人に委任するときの注意点や委任状の作成方法、代理人の決め方についてくわしく解説します。
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もくじ
1.売買契約を代理人に委任するのはどんなとき?
家を売却するときには、名義人となっている所有者が売買契約に立ち会うのが一般的です。不動産の売却には大きな金額が動くため、本人の意思確認は欠かせません。
しかし現実問題として、売買契約に本人が立ち会えず、所有者以外が代理で行うしかないケースは決して少なくありません。
代表的な事例を3つ紹介します。
1-1.売却したい家が遠方にある
売却したいと考えている家が遠方にあるというのが、もっとも考えられる理由です。
たとえば高齢になった親と一緒に住み始めたため、田舎の家を売却したいような事態が想定されます。また所有者が海外に移住してしまっているようなケースなども、本人が売却したくても困難です。
1-2.売却したい家の所有者が複数いる
売却しようとしている家の所有者が、複数いることもあります。
不動産を複数で相続して共有名義になっている場合や、家を購入したときに夫婦で共有名義にしていたものの、今は一緒に住んでいないようなケースが考えられます。
不動産を売却するときには、所有者全員の立ち会いと同意が必要とされています。
しかし、人数が多くて日程の調整がつかない、売却には同意するが元配偶者との顔合わせは避けたいなど、さまざまな事情で共有者全員が揃って売却を進めることが難しいケースもあるでしょう。
1-3.体調不良などで売却に立ち会えない
家の所有者が長期入院している、高齢で老人施設に入居していて外出が厳しいような場合も、売買契約に立ち会えません。体調は良いけれども、仕事が多忙で時間がないといった理由も考えられます。
そのようなときにも、代理人が売却に立ち会うことになります。
2.不動産売却時の代理人とは
不動産売却時に、所有者本人が立ち会えない場合には、代理人を立てることで契約を進めることが可能です。
不動産売却時における代理人とは、どのようなものなのかを説明します。
2-1.代理人と委任状
代理人は、本人の代わりに意思表示を行って法律行為を行う人のことです。民法では代理人について、
と定めています。つまり代理人が行った法律行為は、本人が行ったものと同等の効力を発するのです。
代理人が不動産の売却を行うためには、本人からの委任状が必要です。委任状によってのみ、代理人が不動産の売却に関する代理権があることを証明できます。
委任状には、トラブルを避けるためにも、代理人がどこまでの範囲を委任されているのかを明確にしておく役割もあります。
2-2.「代理人」と「使者」の違い
「代理人」と似た役割に、「使者」があります。代理人と使者を混同していると、トラブルになる可能性があるため違いをしっかりと理解しておく必要があります。
前述したとおり、代理人は本人の代わりに意志表示や意志決定して法律行為を行えますが、使者はその自由がありません。使者は単純に本人の意志を伝えるだけなので、自分で判断して決める権利がない点が、代理人とは決定的に異なります。
もし使者が勝手に不動産の売買契約を結んだとしても、本人にとっては無効となります。代理人と使者の違いを明確にするためにも、委任状が必要になります。
3.不動産売却の委任状の書き方
委任状には、法的に決まったフォーマットはないため、ワードなどで自作することも可能です。しかし項目に不備があった場合には、トラブルになる可能性があるため、内容には十分注意が必要です。
不動産売却においては、不動産会社で委任状を用意していることがほとんどなので、そちらを利用するのが無難です。委任状で一般的に必要とされる書類や項目を紹介しますので、事前に確認しておきましょう。
3-1.委任状以外に必要な書類
委任状を作成するときには、以下のものが必要です。
- 本人と代理人の実印(委任状に押印する)
- 本人と代理人の印鑑証明書(3ヶ月以内に発行されたもの)
- 本人の住民票(3ヶ月以内に発行されたもの)
- 代理人の身分証明書(運転免許証など)
3-2.委任状に必要な項目
不動産売却の委任状では、最低限以下の項目を押さえるようにしてください。
何の委任であるかを明確にする
委任状の冒頭で「不動産の売却を代理人に委任する」ことを明確に記します。
物件情報
だれが所有するどの物件を売却するのかを明確にするために、以下を明記します。
- 土地の情報(地番や地目、地積など)
- 建物の情報(所在地や家屋番号、建物の構造など)
- 物件所有者の住所氏名
売却の条件
代理人に委任するまでに決まった、売却条件を記載します。
- 売却価格
- 手付金の額
- 引き渡し予定日
- 登記申請手続き など
委任状に取り決めがない事項の扱い
委任状に取り決めがない事項については、委任者と受任者がその都度協議することを明記しておきます。
有効期限
有効期限を決めておかないと、取引が成立しなかったあとでも受任者が悪用できてしまいます。3ヶ月程度を有効期限としておき、必要に応じて延長できるように定めておくとよいでしょう。
委任者の住所・氏名(実印を押印)
受任者の住所・氏名(実印を押印)
3-3.白紙委任状の危険性
委任状で用意されている項目に空欄がある委任状を「白紙委任状」といいます。
白紙委任状によって代理人を委任された場合、代理人がそれを悪用することも考えられ、代理権授与表示による「表見代理」が成立する可能性があるため非常に危険です。
表見代理とは?
もともと代理権がない項目について代理人が代理行為を行ったときには、「無権代理」としてその契約は原則無効とされます。しかし買主にしてみれば、委任状があるから代理人と判断したのに、せっかくまとまった契約を無効とされるのは不本意です。
そのため代理権がないにもかかわらず、代理人であるかのように見せかけ、あるいは代理人の受託期限が過ぎているのに代理行為を行った場合で、買主側にはそれが委任の範囲外であったことが分からなかったときには、「表見代理」とみなされ、契約が有効とされることがあるのです。
表見代理で損害を受けたとしても、それは委任した本人が被ることになってしまいます。
白紙委任状はそのような危険性があるため、必ず全項目を埋め、さらに第三者の追記を避けるために、最後に「以上」と記載するようにしてください。
4.不動産売却時の代理人の決め方と注意点
実際に、不動産の売却手続きを委任するとき、誰に代理人になってもらうべきなのか、また代理人を選ぶときの注意点について確認しておきましょう。
4-1.信頼できる人に依頼する
繰り返しにはなりますが、代理人が行った法律行為は、本人が行ったものと同等の効力を発することとなります。
任意代理人の選任には、法的な基準や条件などは定められていませんが、親族や兄弟などの信頼できるが望ましいと言えます。
なお代理人には、司法書士や弁護士を選任することも可能です。費用は発生しますが、共有名義人が多い、離婚問題がからんでいるなど権利関係が複雑な場合は、専門家に代理人を依頼することも検討してみましょう。
4-2.連絡が取れるようにしておく
万が一、委任状に記載されていない内容の事項が発生した場合、代理人は所有者本人に確認を取る必要があります。
また、所有者の本人確認や意思確認をとる場合もありますので、連絡がすぐにつく体制を整えておくことも大切です。
まとめ
この記事のポイントをまとめました。
- 不動産を売却する際、所有者である名義人が契約に立ち会えない場合は、代理人を立てて委任することができる
- 代理人が行った法律行為は本人が行ったものと同等の効力を発するため、代理人が不動産の売却を行うためには本人からの委任状が必要となる
- 委任状を作成するときには、以下のものが必要
・本人と代理人の実印(委任状に押印する)
・本人と代理人の印鑑証明書(3ヶ月以内に発行されたもの)
・本人の住民票(3ヶ月以内に発行されたもの)
・代理人の身分証明書(運転免許証など) - 委任状には次の内容を記載する
・委任する内容
・売却を依頼する物件の情報(地番や地積、建物の情報など)
・売却の条件(売却価格など)
・委任状に取り決めがない事項の扱い
・有効期限
・委任者の住所・氏名(実印を押印)
・受任者の住所・氏名(実印を押印) - 白紙委任状は、代理人が悪用して代理権授与表示による「表見代理」が成立する可能性があるため避けるようにする
- 代理人は信頼できる人を選ぶ。費用はかかるが、弁護士や司法書士などの専門家に依頼するという方法もある
不動産の取引を代理人に委任する際は、買主にも代理人である旨をきちんと伝えておきましょう。
また、委任状の内容は、第三者が見てもすぐに理解できるかどうか、また、曖昧な部分がないかどうかもあわせて確認する必要があります。
とくに、不動産の価格に関する内容については、あらかじめ明確に決めておかなければ、代理人が価格交渉に応じなければならないこともあり、後々トラブルになる可能性が高いので注意が必要です。
そのためにもまずは、今の家を売却した場合、相場価格がいくらくらいで、売りに出す上限はいくらくらいになるのか事前に調べておくことが重要です。
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