この記事は、不動産を相続した時の疑問点全般についてわかりやすくまとめて説明したものです。
相続した不動産についての各項目に、より詳細な記事も多数紹介していますので、相続した不動産で悩んでいる方は、ぜひ一読して参考にしてみてください。
- 不動産の相続と売却の流れ:相続した不動産を売却する場合は、必ず相続登記をしなければならない
- 相続した不動産を複数人で分ける方法:トラブルを回避するなら換価分割(売却代金を相続人で分ける)がおすすめ
- 相続税と相続した不動産売却でかかる費用:相続した不動産の相続税と売却したときの譲渡所得税は、不動産の額や条件によってかかる場合とかからない場合がある
- 不動産の相続放棄:相続を知ってから3ヵ月以内だと不動産も相続放棄することができるが、法定相続人が全員相続放棄をしたら「相続財産管理人の選任」が必要
- この記事はこんな人におすすめ!
- 不動産を相続することになったが、どうすれば良いのかわからずに困っている人
- 複数の相続人で相続した不動産を円満に分ける方法を知りたい人
- 不動産の相続税がいくらになるのか心配な人
- 不動産の相続を放棄したい人
不動産売却について基本から解説
もくじ
1.不動産の相続発生から売却するまでの流れと手続き
- 相続した不動産を売却する際は、まず相続登記による名義人変更が必要
- 相続登記後の売却の流れは通常の売却と同じ。急いで現金化したい場合は買取がおすすめ
- 売却するなら相続人全員の同意が必要。代表者を決めて売却を任せることもできる
ここでは、不動産の相続が発生したときから、相続した不動産を売却するまでの流れと手続きを分かりやすく説明します。
不動産の所有者が亡くなってから相続した不動産を売却するまでの流れは、大きく次の3ステップに分けられます。
ステップ① | 不動産の所有者が亡くなった手続きをする |
---|---|
ステップ② | 相続登記をして不動産の所有者の名義変更をする |
ステップ③ | 相続した不動産を売却する |
1-1. ステップ①:不動産の所有者が亡くなった際の手続きをする
不動産の所有者が亡くなった場合、遺族がやるべきことは、次の表のとおりです。
期限 | やるべきこと |
---|---|
亡くなってからすぐ(7日以内) | 死亡届の提出 |
亡くなってすぐ〜相続登記まで | 遺言書の有無の確認 遺産分割協議書の作成(遺言書がない場合) |
14日以内 | 年金受給停止手続き(厚生年金の場合は10日以内) |
住民異動届け(世帯主の変更届け) | |
健康保険・介護保険の手続き | |
3ヵ月以内 | 相続放棄・限定承認 |
4ヵ月以内 | 所得税の準確定申告(※) |
10ヵ月以内 | 相続税の申告 |
3年以内 | 相続した不動産の名義変更(相続登記) |
※亡くなった人が確定申告が必要である場合、相続人が代わりに所得税の申告を税務署で行うこと。
No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
遺言書があれば、遺言書の内容に従って不動産をはじめとする遺産の分け方が決まります。
遺言書がない場合は、相続人を決めるための遺産分割協議を開いて、相続人と遺産の分け方を確定しなければなりません。
1-2. ステップ②:相続登記をして不動産の名義変更をする
不動産の相続人が決まれば、相続登記をして不動産の名義人の変更をします。相続登記をしなければ、相続した不動産を売却することができません。
相続登記は、次の書類と相続登記の申請書を合わせて、法務局に提出して手続きします。
- 亡くなった不動産所有者の戸籍謄本
- 亡くなった不動産所有者の住民票の除票
- 相続人の戸籍謄本(相続する人全員のもの)
- 相続人の印鑑証明書(相続する人全員のもの)
- 相続人の住民票(相続する人全員のもの)
- 不動産の登記情報がわかるもの(登記事項証明書など)
- 不動産の固定資産評価証明書
- 遺産分割協議書または遺言書(検認を受けたもの)
書類を揃えるのが大変だったり手続きがむずかしかったりする場合は、司法書士に依頼することも可能です。
司法書士への報酬は、相続登記手続きだけの場合だと数万円〜10万円程度、遺産分割協議書の作成などを含めると10万〜15万円程度が一般的な相場価格になります。
1-2-1.相続人の代表者が売却できるようにするには?
相続人が複数いる不動産を売却する場合、相続人全員の同意と売買契約書への署名捺印が必要です。
すべての相続人が売買契約に立ち会うのが大変な場合は、売買契約を結ぶ際の代表者(相続人代表者)を決めて、代表者のみで契約をするという方法もあります。
代用者を任命する際は、次のような内容を記載した委任状を作成し、相続人全員で署名捺印をします。
- 売買金額(取引額)
- 受領する手付金の額
- 違約金の額および契約解除の条件や期限
- 引き渡しおよび決済の時期
- 売却にかかる費用の負担について
委任状にこれらの権限の範囲を設定しておくことで、代表者が勝手に取引内容を変更するのを防ぐことができます。
1-2-2.相続登記の義務化に注意
長く、相続登記の期限は定められていませんでした。
しかし、相続されずに放置されている空き家問題が増えてきたため、2024年4月から相続登記の義務化が施行されました。
これにより、相続による不動産取得を知った日から3年以内に正当な理由がなく相続登記の申請をしないと、10万円以下の過料の対象となります。
義務化される前に相続した不動産で、相続登記申請をしていない場合も対象となるため、相続登記をせずに放置している不動産がある場合は、早めに相続登記申請をしましょう。
くわしくは、「相続した家の売却に必要な相続登記とは?手順と義務化についても解説」で説明しています。ぜひ読んでみてください。
1-3.ステップ③:相続した不動産を売却する
相続登記が完了し、不動産の名義が亡くなった人から相続人に移れば、相続した不動産を売却できるようになります。
相続した不動産を売却する場合でも、売却方法は通常の不動産売却と同じです。
売却方法は、大きく分けると「仲介」と「買取」の2種類があります。それぞれメリットとデメリットがあるため、目的に合った方法を選ぶようにしましょう。
売却期間がかかっても少しでも高く売りたい場合は仲介、売却期限が迫っているなどすぐに不動産を現金化したい場合は買取がおすすめです。
仲介で売却する際の流れについては、「不動産仲介とは?家を希望に近い価格で高く売却できる方法を解説!」で、買取を利用して売却する際の流れについては、「不動産買取とは?なぜ安くなる?相場額や注意点、おすすめの場合を解説」でくわしく説明しているので、ぜひ読んでみてください。
- 合わせて読みたい
- 相続する不動産を売るときの流れ(マンション・戸建て・土地編)
- 相続した家の共有持分を家族(親族)に売る時の注意点についてまとめた
- 相続した家を売るときに必要な相続登記の手続き方法をまとめた
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2. 相続した不動産を複数の相続人で分割する方法と手続きについて
- 相続した不動産を複数の相続人で分割するのはむずかしい。トラブルも多い
- 相続した不動産を売却すれば、分割時のトラブル回避だけでなく税金や管理費用がかからなくなるのでおすすめ
- 売却以外の方法は、メリットもあるがデメリットの方が多い
家や土地といった不動産の相続は、現金や品物よりも分割がむずかしいためトラブルが発生しやすくなります。
そのようなトラブルを回避するためにも、特に利用する予定がなければ、相続した不動産は売却して分けるのがおすすめです。
ここでは、複数の相続人で不動産を分割する方法と、なぜ相続した不動産は売却するのがおすすめなのか説明します。
2-1. 相続財産の分割方法と不動産の場合について
相続した財産(不動産)を複数の相続人で分ける方法は、次の4つです。
分割方法 | どのような方法か | 不動産(土地)の場合 |
---|---|---|
①現物分割 | そのままの状態で財産を分ける | 土地を分割(分筆)し、相続人がそれぞれの土地の所有者になる |
②換価分割 | 財産を売った現金を分ける | 土地を売却し、売却代金を相続人で分ける |
③代償分割 | 財産を受け取った者が、ほかの者に差額金などを支払う | 土地の所有者となる相続人が、ほかの相続人が相続すべき土地分の代金を支払って自分の土地にする |
④共有分割 | 複数人が共同で財産を所有する | 複数の相続人が土地の名義人となる(土地を共有名義にする) |
この4つのなかで、相続した不動産を分けるおすすめの方法は②の換価分割です。
どうしても売却できない理由がなければ、売却した代金を相続人で分ける方向で検討すると良いでしょう。
①の現物分割は、土地が広大であれば可能です。しかし、分筆することでそれぞれの土地の面積が狭くなってしまい、資産価値が下がってしまうこともあります。
また土地を等しく同じように分けるのは、方角や接道の面からも不可能です。そのため分割した土地を選ぶ際に、トラブルが生じる恐れがあります。
③の代償分割は、②の換価分割の次におすすめの方法です。それぞれの相続人の持分を所有者となる相続人が買い取るため、相続した不動産の売却や活用方法などで揉める可能性がなくなります。
ただし、所有したい相続人が複数いる場合は、誰が所有者になるかで揉めるかもしれません。
④の共有分割は、相続した不動産を複数の相続人が共有で所有する方法です。何人かで1つの不動産を相続したけれども売却せずに放置しているような場合、意図せずにこの方法を取っていることがあります。
利用予定のない不動産であれば、共有の所有で問題がないように思われるかもしれません。
しかし、毎年の固定資産税や管理のための費用がかかるだけでなく、いざ売却するとなった場合、名義人全員の同意を得なければならないため、手続きに時間や労力がかかります。
さらに売却時期によっては、相続に伴う売却で適用できる控除や特例が使えないこともあります。将来的に売却する可能性があるなら、早めに売却の決断をするほうが良いでしょう。
2-2. 相続した不動産を売却するメリット
先にも述べたとおり、相続した家や土地といった不動産を相続人で分ける際は、売却した現金を分ける換価分割がおすすめです。
また相続人が1人であっても、特に利用予定がなければ売却するほうが良いでしょう。
不動産を相続した場合、売却するメリットとして次の3つがあげられます。
- 相続財産分割時のトラブルが生じにくい
- 不動産の管理費や税金がかからなくなる
- 一定期間内に売却すると特例や控除が受けられる
1つずつ詳しくみてみましょう。
2-2-1.相続トラブルが生じにくい
相続人が複数いる場合、亡くなった人の遺言状や法律に則って相続財産(遺産)を分割します。
これは、相続財産が現金や物品であっても家や土地などの不動産であっても同じです。
しかし、不動産の場合だと1つとして同じものがなく、また定価もないため現金のように明確に分けることができません。
そのため、特に相続財産を分割する際、不動産のままで分けるよりも、売却した現金を分けるほうがトラブルが生じにくいと言えます。
2-2-2.管理費や税金がかからなくなる
所有者が亡くなったとしても、家や土地などの不動産には、固定資産税が毎年課せられます。
また、適切に維持するための管理費用が必要です。マンションであれば、管理費や修繕積立金の支払いがあります。
しかし、売却してしまえば、それらの費用はかかりません。相続人が複数いる場合も、誰がどれだけ負担するかで揉める心配がなくなります。
2-2-3.特例や控除を受けられる
不動産を相続した場合、相続税がかかります。また相続した不動産を売却して利益を得た場合、譲渡所得税も納めなければなりません。
しかし、一定期間内に相続して売却すれば、相続税や譲渡所得税の特例や控除を受けられます。
そのため、いずれ売却するのであれば、適用できる期間内に売るのがおすすめです。
相続税や譲渡所得税の特例や控除については、あとの項目「3. 相続した不動産売却の際にかかる費用と税金」で詳しく説明します。
2-2-4.売却しても住み続けたい相続人がいる場合は「リースバック」がおすすめ
相続人のうち、その家にこれまで住んでいた人がいる場合、売却されると住むところがなくなるので困るというケースがあります。
しかし手持ちの資金がないため、相続した家を売却しないとほかの相続人への代償金が支払えないといった場合におすすめなのが、リースバックです。
リースバックを利用すれば、家の売却代金としてまとまった額のお金を受け取ってから、その後、賃貸としてこれまでと同じように住み続けることができます。
つまり、家の売却代金を相続人で分け、その家に住んでいた相続人は、家賃を支払うことでこれまでと同じように住み続けることができるのです。
リースバックについては、「【リースバックのまとめ】家を売っても住み続けられる!利用方法や注意点を詳しく解説」で詳しく説明しています。ぜひ読んでみてください。
2-3. 売却以外の方法のメリット・デメリット
相続した不動産の取り扱いとして、売却以外の方法もあります。
しかし、売却以外の方法は、メリットよりもデメリットが多くなりやすいため、あまりおすすめではありません。
ここでは、相続した不動産の売却以外の方法のメリット、デメリットを説明します。
2-3-1.相続した人が住む
相続した不動産が家やマンションであれば、もちろん、相続した人がそのまま住むことも可能です。亡くなった人の同居者が家を相続した場合は、売却よりもこちらの方法が自然な流れかもしれません。
ただし、複数人で相続して居住希望者が2人以上いる場合、誰が住むかで揉める可能性があります。
また複数人の共有不動産にして、住むことになった相続人がほかの相続人に賃料を支払うとなると、手続きや清算などでトラブルになりやすいと言えるでしょう。
2-3-2.賃貸に出す
相続した不動産を売るのではなく、賃貸に出すこともできます。賃貸に出せば、家賃を固定資産税や管理のための費用に充てることも可能です。
しかし、賃貸に出している家やマンションの管理は思った以上に手間や労力がかかります。
当然ですが、入居者がいない間は家賃収入はありません。不動産会社に入居者の募集や管理を委託すれば、その分の管理委託費が必要です。
また相続人が複数いる場合、家賃収入や管理費用をどのように分けるのか、また連絡係を誰にするのかといったことを決める必要があります。
そのようなことを鑑みると、複数人で賃貸に出すのは、あまりおすすめだとは言えないでしょう。
2-3-3.空き家のままにしておく
相続した不動産をどうすれば良いかわからず、空き家にしたままのケースもよく見受けられます。
しかし、特に戸建ての家の場合に注意しなければならないのが、この空き家のままの放置です。
先にも述べたとおり、空き家であっても固定資産税が課せられます。また家をきちんと維持していくためには、管理費用が必要です。
適切な管理をせずに放置していると、建物が傷んだり雑草が生えたりして廃屋になる可能性があります。
廃屋になって各自治体の「空き家条例」に抵触すると、所有者へ勧告や措置命令が出され、強制的に建物が解体され費用を請求される恐れがあるため注意が必要です。
空き家条例については、「空き家予備軍とは?「空き家」になる前にとるべき対策を解説!」の記事で詳しく説明しています。ぜひ一読してみてください。
これらの理由から、相続したまま放置している空き家がある場合は、できるだけ早めに売却するのがおすすめです。
相続した不動産や放置している空き家を少しでも早く、良い条件で売りたいのであれば、そのような売却を得意としている不動産会社を探す必要があります。
しかし、どの不動産会社に任せれば良いのか見極めるのは困難です。
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3.相続した不動産の相続税や売却にかかる費用について
- 不動産の相続時には相続税が、売却時には譲渡所得税が課せられる場合がある
- 相続した不動産を売却する際、控除や特例を適用すれば税金が安くなるが、期限があるので注意する
- 相続した不動産が住まいとして使っていたかどうかで、控除や特例の適用が変わる
不動産を相続した場合や相続した不動産を売却した場合、状況によって相続税をはじめとした税金を納める必要がある場合と納める必要がない場合があります。また控除や特例を適用すれば、納税額を抑えることが可能です。
ここでは、相続した不動産に課せられる税金や、売却にかかる費用などについてわかりやすく説明します。
3-1. 不動産を相続した際の「相続税」について
亡くなった人から相続した財産には、相続税が課せられます。不動産も同様です。
ただし、相続した財産すべてに相続税がかかるわけではありません。法律で定められた「基礎控除」を差し引いた額に課税されます。
3-1-1.相続時の基礎控除や相続税の額はいくらになるのか
基礎控除額の計算式は、次のとおりです。
相続した財産の総額から、この計算式で算出された基礎控除額を差し引いた額に相続税が課せられます。
よって、相続した財産の総額が1億円で法定相続人として妻と子2人がいる場合、相続税が課せられる額の計算式は次のとおりです。
1億円−(3,000万円+3人✕600万円)=5,200万円
-
- 妻の相続分として課税される額:5,200万円✕1/2=2,600万円
- 子①の相続分として課税される額:5,200万円✕1/4=1,300万円
- 子②の相続分として課税される額:5,200万円✕1/4=1,300万円
※配偶者の法定相続分は1/2、子の法定相続分は残りの1/2を人数で割る
相続税の基となる額を算出したら、その額に税率を乗じて控除額を差し引き、相続税額を相続人ごとに計算します。
相続税の税率と控除される額は、次の表のとおりです。
課税される額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | − |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
先のケースだと、妻と子2人の相続税額は次のような計算になります。
※配偶者は税額軽減が適用されるため、1億6,000万円までは相続税がかからない。よって、このケースは妻の相続税は0円となる。
子①:1,300万円✕0.15(15%)−50万円=145万円
子②:1,300万円✕0.15(15%)−50万円=145万円
この相続税の計算は、相続した財産が不動産であっても同じです。
相続税の計算については、「相続したお家に相続税がかかるかどうか簡単にわかる方法」で詳しく説明しています。ぜひ参考にしてみてください。
3-1-2.不動産の相続税評価額を算出する方法
相続した財産が不動産の場合、売却せずに相続税を算出するためには、その不動産の価値がいくらぐらいかという「評価額」が必要です。
建物と土地とでは評価額の算出方法は異なるため、別々の計算方法になります。
建物の評価額は、固定資産税評価額と同じです。固定資産税評価額は、毎年4月〜6月頃に市区町村から送られてくる「固定資産税納税通知書」で確認できます。
更地や戸建ての敷地といった土地の評価額は、「路線価方式」による算出が基本です。
路線価とは、国税庁が出している「路線価図」に記載されている路線(道路)に面する土地、1平方メートル当たりの価額を指すもので、公示地価の約8割の価格に設定されています。
この路線価に、評価したい土地の面積と土地の形状や道路の接面状況などによる補正率とを乗じて評価額を算出します。
計算式は次のとおりです。
土地の相続税評価額=路線価✕面積(㎡)✕補正率
路線価が定められていない場所は、「倍率方式」を用います。倍率方式とは、固定資産税評価額に評価倍率表で定められている倍率を乗じて評価額を算出する方法です。
次のような計算式になります。
土地の相続税評価額=固定資産税評価額✕評価倍率表で定められた倍率
相続した家や土地の評価方法については、「相続した家の評価額の計算方法をわかりやすく説明する」で詳しく説明しています。ぜひ参考にしてみてください。
3-2.相続した不動産の売却にかかる費用
相続した不動産を売却する場合であっても、通常の売却と同じ費用がかかります。
不動産会社に売却を依頼して、仲介で売却した場合にかかる費用は、次のとおりです。
- 仲介手数料(400万円以上の取引額の場合、取引額の3%+6万円+消費税)
- 印紙税(取引額による。1,000万円超5,000万円以下の場合は1万円)
- 抵当権抹消登記の費用(住宅ローンが残っている場合に必要。2〜5万円程度)
- 住宅ローン返済事務手数料(住宅ローンが残っている場合に必要。金融機関によって異なる)
ほかにも、土地の測量費用や建物の解体費用などがかかる場合があります。
あらかじめ売却に際してどのような費用がかかるか、不動産会社に確認しておくようにしましょう。
買取の場合であれば、基本的に不動産会社に支払う仲介手数料は不要です。
不動産売却にかかる費用については、「家やマンションの売却にかかる費用を解説!手元に残るのは結局いくら?」で詳しく説明しています。ぜひ参考にしてみてください。
3-3. 相続した不動産を売却した際の「譲渡所得税」について
相続した不動産を売却して利益が出た場合、その利益分に対して「所得税」と「住民税」から成る「譲渡所得税」が課せられます。
譲渡所得税が課せられるのは、売却額ではなく、売却額から売却にかかった費用を差し引いた「課税譲渡所得」に対してです。
課税譲渡所得額の額は、次の計算式で算出されます。
課税譲渡所得=売却額−(取得費+譲渡費用)−控除額
取得費とは、売却した不動産を取得した際にかかった費用の総額です。不動産を購入した費用以外にも、購入する際に不動産会社に支払った仲介手数料なども含まれます。
譲渡費用とは、売却した際にかかった費用の総額です。売却時に不動産会社に支払った仲介手数料なども含まれます。
この課税譲渡所得に、譲渡所得税の税率を乗じたものが、譲渡所得税です。
譲渡所得税は、相続人で売却代金を分割したあとではなく、分割する前の全額に対して課せられます。
3-3-1.譲渡所得税の税率は所有年数によって変わる
譲渡所得税の税率は、その不動産を所有していた年数が5年以下か5年を超えるかによって変わります。
所有期間による譲渡所得税の違いは、次の表のとおりです。
短期譲渡所得(所有期間5年以下) | 課税譲渡所得×39.63% | ||
---|---|---|---|
所得税:30% | 住民税:9% | 復興特別所得税:所得税額の2.1% | |
長期譲渡所得
(所有期間5年超) |
課税譲渡所得×20.315% | ||
所得税:15% | 住民税:5% | 復興特別所得税:所得税額の2.1% |
所有期間のカウント方法は、実際に所有していた期間ではなく、売却した年の1月1日時点で5年を超えているかどうかとなります。
また親などから相続した不動産の売却時には、所有年数を引き継ぐことが可能です。
3-3-2.所有年数が10年を超えると税率がさらに下がる
住まいとして使われていた不動産を相続して売却した際に、所有期間が10年を超えていれば、売却して得た利益(譲渡所得)のうち、6,000万円以下の部分については、次のように税率がさらに低くなる特例があります。
10年超所有の居住用不動産の譲渡所得 | 6,000万円以下の部分 | 譲渡所得税率:14.21% |
---|---|---|
6,000万円超の部分 | 譲渡所得税率:20.315% |
譲渡譲渡所得税が出た場合は、売却した翌年に確定申告をして納めなければなりません。
譲渡所得税や確定申告については、売却を依頼する不動産会社に相談してみましょう。
3-4. 相続した不動産の売却時に適用できる控除と特例
相続した不動産を売却する際、適用できる控除や特例がいくつかあります。適用要件を満たしている場合、それらを使えば税金を抑えることが可能です。
ここでは、相続した不動産を売却した際に適用できる控除や特例について詳しく説明します。
3-4-1.相続税を取得費にする「取得費加算の特例」
相続した不動産を一定期間内に売却するなどの要件を満たせば、相続税として支払った額の一部を取得費として計上できる特例です。
取得費として加算できる相続税額は、次の計算式で求められます。
取得費として加算計上できる相続税の額=譲渡した人が納付する相続税額✕(譲渡資産の相続税の課税価格÷債務控除前のその人の相続税の課税価格)
取得費として計上できる額が多くなれば、課税譲渡所得額が減るため、結果として譲渡所得税が安くなります。
取得費加算の特例は、相続が発生した日から3年10ヵ月以内(相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで)に売却しないと適用できません。
相続してから期間が空いている不動産を売却する際は、適用期間がいつまでかを確認しておきましょう。
3-4-2.譲渡所得税が軽減される「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」
相続して売却した不動産が住まいとして使われていた場合、一定の要件を満たせば、課税譲渡所得額から最高3,000万円まで控除できるという特例です。
つまり、居住用として使われていた戸建てを売却して利益を得たとしても、その額が3,000万円以下であれば、譲渡所得税がかかりません。
ただし、取得費加算の特例との併用はできないため、どちらが得になるかをあらかじめ計算しておきましょう。
また、この特例を適用するためには、そこに住まなくなってから3年が経過する年の12月末までに売却する必要があります。適用する場合は、期限を確認しておくことが大切です。
居住用として使われていた家(建物)を取り壊したあとの土地にも適用できる場合があります。
適用要件や適用できるかどうかについては、国税庁のサイトで確認してみてください。
国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
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4. 不動産の相続放棄と相続放棄したらどうなるかについて
- ほかの相続財産と同様に、不動産も相続放棄することができる
- 不動産の相続放棄ができる期間は相続を知ってから3ヵ月以内
- 法定相続人が全員相続放棄をしたら「相続財産管理人の選任」が必要
不動産の相続は、ほかの相続財産と同じように放棄することが可能です。
不動産を相続することになった場合、相続手続きなどが面倒だから放棄したいと考えている人もいるかもしれません。
ただし、不動産の相続放棄には、いくつか注意点があります。一旦、放棄を申告すると取り消すことができないため、放棄する前に、どのような注意点があるかを知っておくことが大切です。
ここでは、不動産の相続放棄と注意点について説明します。
4-1. 相続放棄の期限は相続を知ってから3ヵ月以内
相続を放棄できる期限は、相続を知ってから3ヵ月以内です。それを過ぎると、放棄することができません。
相続した不動産に複数の相続人がいる場合、自分の持分だけを相続放棄することもできます。
ただし、不動産をはじめとする遺産の相続を放棄する場合は、原則としてほかの相続財産すべてを放棄しなければなりません。注意しましょう。
不動産の相続を放棄した場合、その不動産を相続するのは、自分以外のほかの相続人です。
相続人が次々と放棄をして、最終的に相続する人がいなくなった場合は国庫に帰属することになりますが、次で説明する「相続財産管理人の選任」が必要になります。
4-2. 相続人不在の場合は「相続財産管理人の選任」が必要
不動産に限らず、相続放棄などにより相続人がいなくなってしまった場合、その相続財産は国庫に帰属されます。相続人が、もともと存在しなかった場合も同様です。
しかしすぐに帰属されるわけではないため、帰属されるまでの間、相続財産を管理する「相続財産管理人」を選任しなければなりません。
4-2-1.「相続財産管理人」はだれが選任されるの?
相続財産管理人を選任するのは、家庭裁判所です。
裁判所は申立ての内容や管理する財産を精査したうえで、管理人として最適な人を選任します。専門家に任せるほうが良いと判断した場合は、第三者の弁護士や司法書士なども選択肢に入れたうえで選任するのが一般的です。
相続財産管理人になるために必要な資格等は特にありません。そのため、相続財産や相続人との利害関係を考慮したうえで、身内や近しい人のなかから選ばれることもあります。
4-2-2.相続財産管理人の申立てに必要となる書類と費用
相続財産管理人の申立てをする際は、申立て申請書に次の書類を貼付して、亡くなった人の最後の住所がある管轄地の家庭裁判所に提出します。
|
また、申立て申請と相続財産管理人の選任および管理人への報酬などとして、次のような費用が必要です。
費用 | 金額 |
---|---|
申立て申請書に貼付する収入印紙代 | 800円 |
連絡用の郵便切手 | 1,000円程度(裁判所によって異なる) |
官報公告料 | 4,230円(家庭裁判所の指示があってから納める) |
弁護士や司法書士への報酬 | 月額1〜5万円程度(裁判所が専門家を選任した場合) |
予納金(※) | 20万〜100万円程度(地域や状況によって異なる。不要の場合もある) |
※予納金:あらかじめ申立人が建て替えて支払うお金。相続財産管理人に支払う報酬などの管理費用に充てられる。最終的に相続財産が現金化されれば予納金は申立人に返還されるが、現金ができない場合や十分な額にならなかった場合は、予納金が返還されないこともある。
4-2-3.相続財産管理人選任から国庫帰属までの流れ
相続財産管理人の申立てから、家庭裁判所による選任を経て相続財産が国庫に帰属されるまで、最短でも1年近くかかります。
大まかな流れは、次のとおりです。
行われること | 期間 |
---|---|
相続財産管理人の申立てから選任まで | 2ヵ月以内程度 |
相続財産管理人選任の公告 | 2ヵ月間 |
相続人を捜すための公告 | 6ヵ月以上の期間(裁判所が定める) |
特別縁故者に対する相続財産分与の申立て | 公告の期間満了後、3ヵ月以内に申立てがあれば行われる |
債権者や受遺者への支払い、特別縁故者に相続財産を分与するための手続きなどをする | 手続きが完了するまで |
相続財産が残った場合は、国庫に相続財産を引き継いで手続き終了 |
相続財産管理人は、必要があれば家庭裁判所の許可を得て、随時、財産を現金化することが可能です。そのため、相続財産における利害関係のない人が選任されます。
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5. まとめ
この記事のポイントをまとめました。
- 不動産を相続して売却する際の大まかな流れは次のとおり
1.不動産の所有者が亡くなった手続きをする
2.相続登記をして不動産の所有者の名義変更をする
3.相続した不動産を売却する - 遺産を複数の相続人で分ける方法は次の4つ
・現物分割: そのままの状態で財産を分ける
・換価分割: 財産を売った現金を分ける
・代償分割: 財産を受け取った者が、ほかの者に差額金などを支払う
・共有分割: 複数人が共同で財産を所有する - 相続不動産を分割する場合は、トラブルになりにくい換価分割がおすすめ
- 相続した不動産には相続税が、売却時には譲渡所得税が課せられる場合があるが、控除や特例を適用すれば税金が安くなる
- 不動産も相続放棄することができるが、不動産の相続放棄ができる期間は相続を知ってから3ヵ月以内
- 法定相続人が全員相続放棄をしたら「相続財産管理人の選任」が必要がある
家や土地などの不動産を相続した場合、特に利用予定がなければ売却するのがおすすめです。
特に相続人が複数いる場合、売却すれば公平に分割しやすくなります。また、相続した不動産が遠方にある場合などは、売却してしまえば、管理費用だけでなく手間や時間もかかりません。
相続した不動産を売却する際に気になるのが、税金や売却にかかる費用です。相続した不動産を売却する際の特例や控除には、適用できる期限があるため注意しましょう。
また、売却して得た利益に課せられる税金の控除や特例にも期限があるため、売却するなら早めに行動することが大切です。
相続した不動産をスムーズに売却したい場合は、弁護士や税理士、司法書士などと連携している相続物件の売却に強い不動産会社に依頼しましょう。
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